1話 幸せな日々。


 1話 幸せな日々。


「いやぁ、夜のデートは楽しいにゃぁ」


「そうだねー♪」


「センセー、実は、ツミカさん、センセーのためにお弁当を用意してきたにゃ。食べさせてあげるから、あーん」


「わーい♪ ウィダ〇インゼリーだー♪ 大好物なんだよねー♪」


 喜びを全身で表現しているセンが、

 口を開けると、

 ツミカは、ウィダーインゼリーのキャップをあけて、

 その飲み口を、センの口の中に押し込んで、袋の部分をグシャリと握りつぶす。


 勢いよく噴射されたゼリーが、センのノドにぶちあたって、


「げほっ、げほっ!」


 当たり前のようにむせたセンを見つめながら、

 ツミカさんは、


「旦那様にお弁当をあーんさせてあげる……あぁ、幸せだにゃぁ」


 などと、ほざき散らかすので、

 それまでは現実逃避していたセンも、

 さすがに、現場に帰ってきて、


「この『謎々しい混沌』が渦巻く状況でも、一つだけ、明確に言えることがある! 他のヤツはどうか知らんが、お前だけは、絶対に俺の事が嫌いだ!」


「おい、名探偵! ツミカさんのどこが、センセーのこと嫌いだって証拠だよ!」


「一センテンスの中に、ツッコミどころを渋滞させるなと、何度言わせる! 難しいんだよ、お前は、発言も性格も!」


 『ヨグシャドーの横暴』からの『重婚ラッシュ』という、

 あまりにも衝撃的過ぎる展開の連続で、

 ついに、SAN値の限界をオーバーしてしまい、

 普通に発狂していたセンだったが、

 しかし、ツミカさんの献身的な介護の結果、

 なんとか正気を取り戻したセン。


 ちなみに言っておくと、ツミカさんは、

 『普段と違うこと』は、特にしていない。


 『いつもどおりのツミカさん』でいるだけで、

 センにとっては気付け薬になりうる。

 それが、茶柱クオリティ。


 ――と、そこで、

 図虚空の中にいるヨグシャドーが、

 テレパシーで、センに語り掛けてきた。


(女どもの方から、条件達成めがけてまっしぐらとは、ずいぶんと楽なミッションになってしまったな。つまらん)


(どうやら、そろそろ、ハッキリさせておいた方がよさそうだ。ヨグシャドー、お前は、俺の味方なのか、それとも敵なのか、どっちだ?)


(愚問だな。『貴様にとっての私』は『貴様にとっての茶柱罪華』と同じぐらいの存在だ。つまり――)


(天敵じゃねぇか! いい加減にしろ!)


 四方八方難敵ばかりのセン。

 あまりにも高すぎる人生難易度にクラクラしていると、

 そこで、


 ジジジ……


 奇妙な音がして、

 次元にヒビが入った。

 そのヒビから、


「ぷはぁ……ふぅ……はぁ」


 と、息継ぎをしながら、

 『鉱石を魔人状にした化け物』と表現するのが妥当な神話生物が登場する。


 その化け物は、


「我が名はディグラ……貴様らを喰らい、外なる神へと昇華する者」


 などと名乗りを上げてから、


「我が野望の贄になれる幸福をかみしめながら死ねぇ!」


 と叫び、一番近くにいたトコに殴り掛かった。


 その脳筋な特攻に対し、

 『トコ担当のクティーラ』が、

 トコの影からヌっと出てきて、


「やかましいぃいい!」


 と、豪快なカウンターを決め込んでいく。

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