64話 不屈の魂魄。
64話 不屈の魂魄。
「ちなみに、それは、どこの誰だ?」
「隣のクラスの『真剣卍(まじまんじ)』くんにゃ」
「……まじまんじ……くん?」
「彼は、とってもすごい男にゃ。なんせ、彼は、これまでに、8回も漢検3級に落ちているというのに、まだ、普通に受ける気でいるという、とんでもない器の持ち主にゃ。あの不屈の魂魄っぷりには、敬愛の意を表するしかないにゃ」
「確かに、その情報には特異な畏れを禁じ得ないが……」
と、素直な前を置いてから、
「俺が言うのもなんだが、そんなエグいドキュンネームのやつ、隣のクラスにいたか? 俺は、自分のクラスメイトの名前もロクに覚えていないから、確かなことは言えないが……そこまでヤバい名前のやつがいたら、さすがに『俗世とのかかわりを断っている、この閃さん』でも、ウワサを小耳に挟むくらいはしているはずなんだが……」
「あの卍くんを知らないなんて、驚きにゃ……まったく、センセーは、そんなんだから、陰で『童貞の成りそこない』って揶揄(やゆ)され散らかされているだにゃぁ」
「童貞の成りそこないって……ヤっているのか、ヤっていないのか、いまいち、判断に苦しむキラーワードだな……」
などと呆れ交じりにつぶやいてから、
「なんというか……これまでの、アレコレというか、全体を通して、いろいろと考えた上で、お前にどうしても言いたいことがあるんだが……言ってもいいか?」
「別にかまわないけれど、ただし、最初にハッキリと言っておくにゃ。プロポーズだったら、お断りにゃ。ツミカさんの心は、卍丸先輩に奪われているからにゃぁ」
「……名前が、ちょっと変わってねぇか? あと、隣のクラスだと、同級生だよな? なんで先輩?」
「そんなどうでもいい事を気にしているヒマがあったら、さっさと、ハニーウィンストンに行って、給料三か月分の指輪を買ってくるにゃ。話はそれからにゃ」
「……プロポーズ前提で話を進めるんじゃねぇ」
「それ以外に、どんな話があるというにゃ?」
「お前の、その『女としての絶対的な自信』に水をさしてなんだが……」
丁寧に前を置いてから、
センは、茶柱の目をジっと見て、
「俺、お前、きらぁい」
ハッキリと、そう言い切った。
「おやおや、ツミカさんに、そんな事言っていいのかにゃぁ? 今夜、デートしてあげようと思っていたけど、考え直そうかにゃぁ」
「てめぇ……弱みにつけこむとか、最低だぞ」
「ふふんっ、弱みにつけこまれていることに文句をつけるより、弱みを見せてしまったことを恥じるべきだと、ツミカさんは思うけどにゃぁ」
「まあ、一理なくもないが……そもそも、弱みさえなければ、つけこまれる心配もないわけだしな。しかし、人というのは、そこまで完全には――」
「ああ、ああ、ごちゃごちゃとやかましいにゃ。そんなくだらないことを口走っているヒマがあるなら、『世界一の女神茶柱罪華様、私は、あなた様の卑しい奴隷です。どうか、踏みつけてください』と、世界中に響き渡るくらいの大声で叫び、ツミカさんのご機嫌を取るべきだと思うにゃ」
「調子に乗んなぁ!」
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