69話 てのひらの上で転がされる感。


 69話 てのひらの上で転がされる感。


「あははははははははっははははは! もろい! 弱い! ザコい! てめぇら、もっとシッカリしろよ! そんなザマで、よく俺の前にいられるな! 恥を知れ!」


 止まらない殺戮の中で、センは、どこまでもゆがんでいく。

 その目は、完全に飛んでいた。


 理性を感じない瞳。

 ハイになってフワフワしている。



「いひひひ! あはは! 死ね死ね死ねえぇええ!」



 命をもてあそぶ。

 止まらない衝動に支配される。


 自分を見失う。

 『センエース』を忘れる。



「――フィニィィィッシュ!!」



 ついには、アッサリと、

 100体のオメガ真眼蟲賢王・ウルトラインセクトを殺しつくすセン。


 当たり前のように、また100体復活。


 それを見て、センは、


「ちっちぇなぁ」


 ケラケラと笑う。

 血走った目。

 乾いた肌肉。


 何もかもがズレていく。

 心と身体のバランスが崩れる。


 時間を飲み込んで、

 『歪み』の精度が研ぎ澄まされていく。


「完成した俺の前だと、お前らは、ただの虫けら。俺だけが命で、お前らはジャンク。わかるかい、その機微(きび)が。わかんねぇだろうなぁ。ああ、わかんねぇだろうぜ。でも、それでいい。俺だけが美しい。それでいい。それがいいぃいいいいいい!」


 言葉が滅裂になっていく。

 意識が揺らいでいく。


 センエースは壊れた。



 ★




 ――アッサリと、一万体のオメガ真眼蟲賢王・ウルトラインセクトを倒したセンは、


「……大神級のモンスターを、1万体も殺したってのに……これでも、オメガレベル6000の壁は超えられねぇのか……この壁、厚すぎねぇか?」


 と、オメガシャドーに問いかける。

 オメガシャドーは、冷静な声で、たんたんと、


「一万のオメガ真眼蟲賢王・ウルトラインセクトは、間違いなく、君の器になった。だが、あくまでも器。なんだってそうだが、器だけでは意味がない。中身を注ぐ必要がある」


「なら、器の中身になりえるエサを出しやがれ」


「不可能だ。私は、オメガモンスターを召喚することしかできない。すでに、君は、私に召喚できる最高位のモンスターを、限界まで食い尽くしてしまった。私の役目はここまでだ」


「……あきらめるなよ。もっと、いっぱい出してくれ。この程度じゃ、まだまだものたりねぇ。俺は、もっと強くなりたい」


「心配しなくていいよ、センエース。君のエサは地上にある」


「……というと?」


「ゼノリカ。第二~第九アルファを統べる組織。その『天上』は、君が築き上げた器の『中身』たりえる」


「……ほう」


「さあ、センエース。準備運動はもう終わった。そろそろ狩りの時間だ。ゼノリカを……喰い尽くせ!! そうすれば、君は真に完成する!!」


 その言葉を受けて、

 センは、


「俺に命令するなよ、三下」


 そう言いながら、右腕で、

 オメガシャドーの胸部を貫く。


「ぐふぅうっ……っ!!」


「オメガモンスターを召喚するしか能のないクソ装置の分際で、誰に指図してんだ。俺の行動は、俺の意志で決める。つぅか、てめぇの、その、『俺を手のひらの上で転がしている感』が、死ぬほどムカつく」

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