96話 デジャブ。
96話 デジャブ。
「お前は強い……強くなった……『弱さ』を背負い『命の最強』に届いた……だが、『私』には届かない。この事実には、私も、ため息しか出ない」
「俺の『底』を見た気になったな! そいつはフラグだぜ! 『その幻影』の一歩先へと踏み込んで、風穴をあけてやる!!」
「むりだよ、天童久寿男。お前はすでに出し尽くした。一歩先はもうない」
「あるんだよぉおおおお!! 最後の最後のとっておきぃいいいい!」
そこで、天童は、亜空間倉庫から一本のナイフを取り出し、
――自分の胸に突き刺した。
天童の心臓を突き破る、死色のナイフ。
「なにをっ――」
いぶかしげな顔で声を漏らすソル。
天童は、ゴフっと血を吐きつつ、
胸から、だらだらと血を流しながら、
「か……覚悟を力に変えてやる!! 作楽を……佐々波を……高瀬を……安西さんを………………『母さん』を奪った貴様に! ……俺の全部をたたきつける!! 俺の全部で、貴様を殺す!! それ以外に、俺の存在理由は必要ねぇ!」
「上がっていく……膨らんでいく……素晴らしい。とてつもなく、すさまじい力……いいぞ、天童……その力、その覚悟……どこまでいく? 超えられるか? 私を!!」
天童久寿男の母、
この世界の主――『天童アリア』が、
ソルとの決戦後、
死に際に、愛する息子へ遺した『想いのナイフ』。
刃のような狂気の愛――その具現。
『我が子への想い』、
ソレを受け取った息子は、その莫大な想いを『最後の覚悟』にかえて、
この瞬間、
貪欲に、獰猛に、狡猾に、徹底して暴力的に、
――『ソルを殺すための力』を求める。
「俺は死ぬ気で望む!! 貴様を殺すためのだけの力! この出血量なら、俺はもう死ぬ!! 勝とうが負けようが、どっちにしろ、これが最後の闘い! だからぁああああ!! 俺を縛り付けるリミッターをブチ殺し、魂の全てを燃やし尽くせぇ!」
天童久寿男は、自分自身につきつける。
「絶死のアリア・ギアス、発動ぉおおおお!!」
想いを燃料にした覚悟が、燃えるように煌めく。
狂気的な『赤いオーラ』に包まれる天童を見て、
ソルは目を輝かせ、
「覚悟を力に変えるシステムか……秀逸だ。なにより、ネーミングがウルトラかっこいい……気に入った!」
言いながら、
『最後の特攻を仕掛けてきた天童』と対峙する。
火花が閃光になり、
加速をもって終焉を飾る。
激闘。
殺し合いというより、世界の削り合い。
ピカピカとチカチカと、
音と光が過敏に連鎖して、
世界を鮮やかに染めていく。
――と、まさに、その時だった。
時空に切れ目ができた。
キレッキレになっている天童の知覚は、
一瞬で、その歪みを捉える。
(……時空の裂け目……ソルが開けたのか?)
などと思っていると、
時空の裂け目の奥から、
一人の男が出てきた。
(あいつ……誰だっけ……見覚えがある気が……)
天童は、反射的に記憶を探ってみる。
なつかしさを憶える顔。
フっと、
頭の中で、記憶が繋がった。
今、この瞬間まで、忘れていたが、
(確か、高一か高二のころのクラスメイト……名前……までは……憶えていないが……)
完全にうろ覚えだが、
しかし、完全に忘れてしまったわけではなかった。
『こんな顔のクラスメイトがいた』ということは、
なんとなく、ほんの少しだけ憶えている。
その、元クラスメイトは、
周囲をサっと観察してから、
「……んー」
右手の人差し指で、ぽりぽりと頬をかいてから、
「……えっと……お前……誰だっけ……名前、確か……てん……てんどう……だっけ? あってる? お前と顔を合わせていたのは、もう、何十年も前のことだから、正直、名前、憶えてねぇ」
天童を見ながら、そう声をかけた。
その呼びかけに対し、天童は、
「……天童であっている……で……お前は? 顔は、なんとなく憶えているが……名前が出てこない……」
「憶えてないのかよ。俺は憶えていたというのに、ふざけた話だ。まあ、別にいいけどな。……俺の名前はセンエース。どこにでもいる普通の高校生だ。こんにちは」
「……ごほっ……」
何か言いたげな顔をしたものの、
しかし、体にかかっている負荷が大きいせいか、
ただただ大量の血を吐く天童。
そんな天童を横目に、
センは、
「大変そうだな。どういう状況か、教えてくれる?」
「……そんな余裕は……ない……」
「みたいだな。今のお前は、だいぶ死にそうだ。――どう? 手を貸した方がいい?」
「貸して……くれるのか……?」
「なんか、その方がよさそうだからな。俺に『人を見る目』なんてものは、一ミリもないが……けど、たぶん……お前じゃなくて、『あっち側』が『俺の敵』だろ?」
そう言いながら、センは、ソルをにらみつける。
「何がどうとは言えないが……あいつからは、『命の敵感』を……『ラスボス感』をヒシヒシと感じる……あいつを殺したら、俺が抱えている面倒事とかも、ぜんぶ解決するんじゃねぇかな……おそらく……たぶん……知らんけど」
なんの確証もない。
完全に勘。
しかし、ただの勘で終わらせられない『響き』のようなものを感じた。
何がなんだかは分からない。
けど、センは、目の前の『敵』から、ビリビリと何かを感じた。
目の前にいる敵――『ソル』は、自分の敵だと、魂が理解する。
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