71話 各々の彩り豊かなキン○ボンビー。


 71話 各々の彩り豊かなキン○ボンビー。


 ――『ここではないどこか』で、

 センエースの意識のカケラが弱弱しい息をする。


 浅い呼吸で、ほぼ無意識。

 ほとんど何も見えない。

 まるで、『爆睡中に、アラームでたたき起こされた時』のような状態。

 うつらうつらとした無意識の中で、

 センは、『彼ら』を視認する。


 認識レベルは低いが、

 ゼロではないという不確定な状態。


 そんな寝ぼけまなこのセンに、

 彼らは、


「たくしたぞ」


 一人一人、そんな言葉を投げかけていく。

 たった一言。

 文字数にして5文字。

 漢字を使えば、さらに一文字減らすことも可能なほど短いメッセージ。


 しかし、そこに込められている想いは、とんでもなく重たい。

 人間では背負いきれない重荷。

 そんな厄介な重荷を、面と向かって押し付けられたセン。

 それも、一個や二個ではなく、莫大な数の重荷。


「……なんだ、お前ら……どいつもこいつも他人任せ……自分でどうにかしようという気はないのか、クソボケども」


 無責任な押し付けに対して、

 センは普通に怒りを覚えた。

 勝手に押し付けられたこの荷物、

 ツバでも吐き捨てて捨ててやろうかとも思ったのだが、

 しかし、


「……ちっ……なんでだろうなぁ……」


 寸でのところで『捨てたくない』と、思ってしまった。

 その理由は、さっぱり分からない。

 何の役にも立たないだろうと思うし、

 思い入れがあるわけでもないのに、

 なぜだか、センは、その荷物を捨てることができない。


「……つぅか、俺、どういう状態……? 死んでる感じ? ここどこ? 天国?」


 センの問いかけに、誰も応えない。

 ただ、ひたすらに、

 センに対して、背負ってきた荷物を押し付けてくるだけ。


「……クソどもが……『寄ってたかって各々の彩り豊かなキング○ンビーを押し付ける』という断固たるイジメに没頭しやがって。倫理観どうなっていやがる。せめて、質問にぐらいこたえやがれ、カスどもぉ……」


 この状況がどういう状態なのか、

 センはさっぱり理解できていない。

 しかし、荒唐無稽な夢の中みたいに、

 『まったく知らないはずの彼ら』のことが、

 なんとなく理解できてしまった。


 生まれて初めて見た顔で、当然名前も知らない連中。

 けれど、センは、彼らのことを『兄弟』のように感じた。

 これまでの人生、ずっと、『完全一人っ子』でやらせてもらっているはずなのに、

 『彼らと自分との関係性』を頭の中で言語化した際、

 『兄弟』という言葉だけがシックリと胸に落ちたのだ。


 ――その後も、大量のバカ野郎共から、

 山ほどのキン○ボンビーを押し付けられたセン。


 最後に、

 『ヒョリガリくせぇクソ陰キャ』がセンの前に立った。

 頼りないツラをしている、脆そうな男。

 年齢は、センと同じぐらいに見える。

 そのヒョロガリは、


「センエース。お前にトコが救えるか?」


 と、そんな質問を投げかけてきた。

 いまだ、うつらうつらとしたまどろみの中にいるセンは、

 まったく思考を介さず、反射的に、


「……お前は、そればっかりだなぁ……」


 とつぶやくと、

 ヒョロガリは、

 自分の胸に手をあてて、




「――悪鬼羅刹は表裏一体」




 一瞬、世界から音が消えた気がした。


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