79話 記憶と能力の時間跳躍。


 79話 記憶と能力の時間跳躍。


(いくらなんでも、命の格差がありすぎだろ、ふざけやがって。バランス調整ミスりすぎなんだよ。『ド素人が、RP〇ツクールでつくったゲーム』でも、もう少し、ましなバランスをしているぞ)


 などと、

 そんなことを考えていると、

 そこで、背後から、黒木が、


「本当に、異常な強さですね、あなたは」


 呆れ交じりに、


「私は、武に関しては、ほとんど素人ですが、しかし、それでも、あなたの武術が、人外レベルであることぐらいは、見ればわかります。あなたは異常です。人の域を大幅に超えている。なぜ、そこまでの強さに至ったのか、できれば、説明していただきたいところですが……どうせ、また、はぐらかされるだけなのでしょうね」


 と、諦観している彼女を尻目に、

 センは、


「……」


 空気が乱れない程度の、

 呼吸を整えるだけのわずかな時間だけ、

 頭を悩ませてから、




「……俺は……一週間後からタイムリープしてきた」




「……ぇ? タイム……ぇ?」


 ぽつぽつと、

 経緯を語りだすセン。


 その態度や口調から、

 『センの心境に、何か大きな変化が起こった』

 ということを敏感に感じ取った黒木は、

 『一言一句たりとも聞き逃すまい』と、耳をたてる。


「――『すべての記憶』と『一部の能力』を『過去の俺へとコピペできるアイテム』を使い……俺は、今週の月曜日から土曜日までを何度も繰り返した……」


 センは、言葉を探しながら、

 しかし、ファントムトークに逃げることなく、

 真摯に、


「これまでに、同じ一週間を、1000回ほど繰り返した」


 まっすぐな事実を、

 黒木に伝える。


 黒木は賢い子である。

 『賢い』とは、『理解力』とイコール。

 ――だから、


「……せ、せん回? ……い、一週間を1000……じゃ、じゃあ、あなたは……7000日……20年近く……ループを……」


「まあ、そうなるな。正確に言うと、月曜から土曜日までの6日×1000回だから、15年ちょっとだが……まあ、それでも、なかなか信じられない数字だよな。普通に頭イカれている数字だから」


 センの言葉に対し、

 黒木は、一度、ゴクリとツバを飲んでから、


「……ぃ、いまさら、あなたの言葉を疑ったりはしませんが……」


 言葉に出来ない感情を抱えつつ、

 少し震えている自分の手を、精神力で抑えつけながら、


「そ、それよりも、『理由』を教えていただいてもよろしいですか? どうして、同じ一週間を……1000回も……」


 そこから、センは、これまでのループの流れを説明し、

 『今回の周だけ、それまでとは少し違う流れになっている』ということを話した。


 ――もちろん、

 四人の美少女とそういう関係にならないと、

 アウターゴッドが召喚されてしまう、

 という点に関してはゴリゴリに省いた。


(さすがに、これは言えん、言えん……)


 もしかしたら、

 『そこ』を詳細に説明すれば、色々と、スムーズに、

 ことが運んだかもしれないが、

 しかし、まだ、センの中では、

 『スムーズに運んでしまうこと』に対する躊躇が残っているため、

 結果的には、沈黙を尊んだ。

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