61話 無様。

 61話 無様。


(閃壱番は、頭がおかしい。完全な異常者)


 そんなことをつぶやいている間に、

 城西は、ゲートに飛び込んでいった。


 結局、絶望の波動を受けて以降は、

 一度も、茶柱の事を気にかけなかった城西。

 城西がゲートに飛び込んだ直後のことだった。


 茶柱の後ろに、

 ゲートが出現し、

 そこから、


「……ぇ……?」


 城西が再登場した。


 極めて単純な話。

 エルダーグールが用意したゲートは、

 『脱出用のゲート』ではなく、

 『超近距離を繋いでいる無意味なワープホール』でしかなかった。


「おかえり」


 茶柱は、きわめてフラットな声で、

 茫然としている城西にそう声をかけた。


 城西も、バカではないので、

 すぐさま、状況を理解した。


 『エルダーグールにからかわれたのだ』という理解と同時、

 『自分は、ここで殺されるのだろう』と悟った。

 だから

 城西は、膝から崩れ落ちて、


「……い、イヤだ……」


 転んだ子供みたいに、

 ボロボロと大粒の涙を流しながら、


「死にたくない……がんばって……生きてきたんだ……死にたくない……怖い……いやだ……お母さん……お父さん……助けて……」


 などと、

 『高校生であること』を考えれば『普通』と言ってもいい『弱さ』を吐き散らかす。

 頭を抱え、小さくなって、『助けて』を連呼する。


 その弱弱しい様子を見て、

 茶柱は、


「無様……」


 そう呟いてから、


「――とは言わない。本当なら、私も、そうやって、うずくまりたいから」


 真摯な言葉で、

 城西と向き合う。


「誰だってそう。普通はそうなる。『頭がおかしくなるほどの絶望』を前にして、まっすぐに勇気を叫べるほど、人間の魂魄は力強く創られていない」


 真理を説きながら、

 昨夜のことを思い出しつつ、


「閃もそうだった。バケモノを前にして、あのバカは震えていた。意味不明な根性をしているから、ギリギリのところで、立っていられているようだったけど……『恐怖を感じていない』というわけじゃなかった。頭でどう思っていたかは知らないけれど、体は確実に震えていた」


 『グール』ぐらいが相手だと、

 さすがに、ビビりはしないのだが、

 しかし『上位のGOO』が相手となれば、

 さすがに『呑気』は通せない。


 『存在値が同等』で『敵の攻撃』に対し『何発かは耐えられる』という状況なら、

 そこそこ余裕をもって、対峙することも出来ただろうが、

 センの肉体は、

 GOOのジャブが『カスっただけ』でも爆散してしまうほど脆い。


 ロイガーと戦った時も、

 ウムルと戦った時も、

 常にセンは命がけだった。


 命をむき出しにして、

 ギリギリの瀬戸際で綱渡りをしていた。


「恐怖に対して鈍感だったわけじゃない。あのバカは、ちゃんと震えていた。自分の命が『むき出しになっている』ということに対して、真正面から恐怖を感じていた」


 『恐怖と向き合う勇気』を鍛えることは不可能じゃない。

 とことんメンタルを鍛えれば、勇気もシッカリと育っていく。

 しかし、いくら勇気が育っても、

 『恐怖心』を『克服する』ことは不可能。

 命ある限り、恐怖とは、永遠に戦い続けなければいけない。


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