82話 フラグとの向き合い方。


 82話 フラグとの向き合い方。


『年俸8000億でどうだ? 紅院家が抱えている【裏稼業の人間】は山ほどいて、誰もが超高給取りだが、それと比べても、頭二つ抜けている額だ。それだけ、君を高く評価していると理解してもらいたい』


「ありがたい話だが、辞退させてもらう」


『となると、君は死ぬ。その金庫は、入るよりも出て行く方がはるかに難しい。難しいというより無理だ。確実に、君はそこで死に絶えることになるだろう。君ほどのスペシャリストを失うのは本当に惜しい。考え直せ』


「心配無用。この程度で、俺は死なない」


『…………頼む。そこにあるチップだけは盗まないでくれ。それは人類の希望だ』


「最初から言いたかったことが一つあるんだけど、言っていい?」


『なんだ?』


「この金庫、空っぽなんだけど?」


『……なに?』


「もしかしたら、俺が入る前に、誰かが盗んだんじゃない?」


『ありえない……裏金庫の警備体制は完璧だ。絶対にありえない……』


「警備体制、完璧……ねぇ。現に、こうして、チップとやらが、なくなっているのにも気づいていなかったわけだが?」


『本当に、【最初からカラっぽ】だったのか? 君が盗むからカラになる、とか、そういうジョークではなく?』


「ああ。俺が来たときには、カラッポだったよ。だから、すげぇガッカリしている……いや、マジで」


『……』


「じゃ、そろそろ、俺は帰るよ。いろいろと、忙しいんでね」




 ★




 ――その日の夜、

 ロイガーを撃破した『ノゾ=キマ』に、

 紅院美麗が、


「……もしかして、あんたが噂の怪盗エックス?」


 と、問いかけてきた。

 続けて、紅院は、


「その膨大な力は……裏金庫のレアパーツを奪い取ったから……としか思えないのだけど?」


 とたたみかけてきた。

 センは、数秒考えてから、


「好きに妄想しておけばいい。怪盗エックスでも、ノゾ=キマでも、なんでもいい。ぶっちゃけた話、お前らが俺をどう思うかはどうでもいいんだ」


 『プラスの感情を抱かれないのであれば、どう思われてもいい』

 というのが正確な表現なのだが、

 そこまで丁寧な説明をする気はなかった。


 センは、


「じゃあな、ザコども」


 マイナス感情をあおる言葉だけを残して、

 その場から瞬間移動した。




 ★




 そこからの流れは、非常に機械的だった。

 淡々と、いつもと同じ流れをたどるだけ。

 GOOを倒し、アイテムを漁り、

 正解だと思うフラグをたてつづけた。


 センの視点で言えば、恐ろしく地味で退屈な作業。

 『よほど我慢強い人間でも、そろそろ発狂する』、

 そんな状況に陥っていながら、しかし、

 センは、まっすぐに、世界を睨みつけていた。


 心折れそうになるたびに、

 奥歯をかみしめて、


「……ナメるなよ……」


 『決して折れてやらない』と、

 弱い心を殺して、

 まっすぐに、前だけを向き続けた。


 そうやってたどり着いた、運命の日。

 対テロリスト用の避難訓練。


 ――このルートで、

 300人委員会は、『怪盗ノゾ=キマ』の正体を知らないので、

 当然のように、

 『あぶり出し』を謀ってきた。


 センが動かなければ、ランダムに誰かを殺す。


 非常にシンプルな策略。

 そのプランAに対し、

 センは、


(これが、フラグである可能性は大いにある……)


 そう認識し、


(……お望み通り、テロリストどもを叩き潰してやるよ……)


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