90話 後味のパンチがこみあげてきただけ。


 90話 後味のパンチがこみあげてきただけ。


「きっしょいなぁ……くそがぁ」


 センは、そう言ってから、

 トウシの『バグに噛まれた箇所』に口をあてて、

 毒を吸い出そうとする。


(うぇ…………おぇ……死にたい……)


 心底イヤだったが、

 トウシという強化パーツを失うのは致命傷なので、

 センは仕方なく、

 チューチューと、毒を吸いとる。

 おぞましい感覚。

 強い吐き気。

 これは、毒ではなく、トウシに対しての感情論。


 完全に吸い出したところで、


(ここ、『センキーの中』だから、吐き捨てるわけにもいかんのよなぁ。つぅか、そもそもにして、体外に出すのが無理っぽい……これは、センキーに刻まれたもの。トウシから俺に移すぐらいが関の山……はぁ)


 覚悟を決めて、ごくりと飲み込んだセン。

 すると、


「ああ、なるほど。これはしんどいわ。うん。一般人には耐えられないな」


 と、額に軽く脂汗を流す程度で余裕しゃくしゃくのセン。

 そんな彼を見て、トウシは、


「……お前、どうなっとるん? ソレ、めちゃめちゃしんどい毒で、ワシ、普通に死にかけたんやぞ……その毒を、丸々引き受けといて、なんで、そんな普通の顔ができんの?」


「ふふん。お前とは根性が違うからな。ヘタレのお前には理解できないだろうが、俺は、これまで、極限状態の地獄を無限に超えてきた。そんな俺からすれば、この程度は……おぇ、うぇ……げほっ」


「…………大丈夫ですか?」


「う、うるさい、ちょっと、後味のパンチがこみあげてきただけだ。もう大丈夫だと思った腹痛が再発することはよくあるだろ? あれと同じだ」


「ほな、大丈夫やないやろ。その状態は普通にゲリが腸の中で暴れ散らかしとる」


「うるさい、とにかく俺はお前よりも凄いんだ。それだけ理解できたら、とっとと、自分の作業に戻れ、ばーか、ばーか」


 そう言い捨ててから、

 センは、ヨグとの闘いに戻るため、センキーの中に溶けていった。


 そんなセンの残影を尻目に、


(あまりバグらせすぎると、手痛いしっぺ返しをくらう……か。厄介な話やな……)


 そうつぶやきつつ、作業に戻り、


(すでに、重要なバグはぶちこんだ……あとは、このまま実行して、プラチナムを7に変えて……)


 と、そこで、



 ――っっっ?!



 『センキー』の『全身』に、強烈な衝撃が走った。

 当然、『センキー』の『中』にいるトウシにも強い影響が出る。



(――あ、こら、あかんなっ……ヨグから、えぐい攻撃をくらったっぽい……おい、センキー、大丈夫か?)



 自分の中のトウシに心配されたセンキーは、


「うっせぇ、ぼけ……てめぇは、黙って仕事してろ」


 そうつぶやきながら、

 どうにかこうにか立ち上がる。


 ありていに言えば、ヨグの異次元砲をじかにくらってしまった。

 それまでは、どうにか避けていたのだが、

 『センの部分』が『虫』に気をとられたことで、

 運動系統が散漫になって、

 ヨグの一撃を回避しきれなくなってしまった。


 すべてが悪循環の坩堝(るつぼ)。

 うまくいかないときは、なぜだか、とことん、不幸が美しく重なる。

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