37話 センエースとタイマンを張る勇気。


 37話 センエースとタイマンを張る勇気。


(……『お情けの譲歩』が欲しいのはこっち側だってのに……なんで、俺の方が、こんなに『どでかいハンデキャップ』を背負わないといけないんだ……)


 心の底から、運命に対して辟易していると、

 そこで、カイザーウイングケルベロスが、

 『魔力壁に向かって異次元砲を放ったセン』に対し、



「無駄だ、バカが。どうやら、貴様は、人間にしては、そこそこマシな魔力を持っているようだが、その程度で、主の壁を破壊することなど出来るわけがない」



 鼻で笑われたセンは、

 ダルそうな顔で、


「……どうやら、そのようだな。この『まったく歯がたたない感じ』だと……おそらく、斬撃や打撃でも無駄だろう……異次元砲よりは、物理系の方が得意で、一点集中の火力では倍ぐらいの威力を出せる自信があるんだが……その程度じゃ、話にならねぇだろうなぁ……」


 などと言いつつ、天を仰いで、タメ息をつく。


「ヤッバいな、この状況……完全に詰んでいるってのに、逃げることもできねぇ……勘弁してくれよ、マジで、ほんと、クソが……はぁああああ」


 しんどそうな顔をしているセンに、

 彼の『最も近くにいた女子中学生』が、

 不安そうな顔で、


「あ、あの……あそこの飛んでる犬……た、退治……できないの?」


 と、すがるように、そんな声をかけてきた。

 その『質問の答え』を欲しがっているのは、

 彼女だけではなく、ここにいる全員。


 ゆえに、センの一身には、

 数百人分の視線が突き刺さった。


 ただの視線ではなく、

 悲痛の想いが込められた視線。


 ゆえに重い。

 ゆえに痛い。


(そんな目で見るんじゃねぇよ……くそが……)


 心の中で、吐き捨ててから、

 呼吸を整えて、


「普通のやつにはできねぇだろうな……けど、俺は普通じゃねぇ。何がなんでも殺してやるさ」


 そう言いつつ、

 心の中で、


(そうじゃないと、すべてが終わってしまうから……それだけは、イヤだから……)


 でかい覚悟をガツンと決めて、

 センは、キっと、

 カイザーウイングケルベロスをにらみつける。


「おい、そこの犬。お前に、俺とタイマンを張る覚悟があるか? いや、ないだろうな。お前は臆病者だ。無力な中学生をいたぶることしかできないサイコパスの変態でしかない。お前に、俺とタイマンをはる勇気はない」


「くく……おそろしく安い挑発だな。貴様が格下でなければ、鼻で笑って一蹴しているところだが……」


 そう言いながら、カイザーウイングケルベロスは、

 ゆっくりと、地表に降りてきて、


「それだけの上等をかましてきたんだ。簡単には死んでくれるなよ。くく」


 ニタニタと小バカにした笑みでそう言いながら、

 ギラリと鋭いキバを魅せつけてくるカイザーウイングケルベロス。


 そこから、


「……」

「……」


 五秒ほど、無言のにらみ合いを経て、

 最初に、カイザーウイングケルベロスが動いた。


 先手を取ったというわけではなく、

 様子見のチョッカイをかけてきただけ。


 シッポをしなやかに高質化させて、

 変則的な軌道のフリッカーをぶちこんでくる。

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