87話 世紀の究極超怪盗ノゾ=キマ。


 87話 世紀の究極超怪盗ノゾ=キマ。


 『彼女が出来るかも、めでたし、めでたし』

 で終わるほど、センの旅路は甘くない。

 というか、セン的には、むしろ、現状こそが最大の地獄ともいえなくはない。



「……今まで受けてきた絶望の中で、この状況が一番キツい……」



 ボソっとつぶやいたセンの表情は、

 『死んだ魚』が二度見しそうなほど、

 それはそれは、ドンヨリと曇っていたという。



 ★



 総合格闘技大会で優勝したセン。

 直後、

 今大会の総合責任者である『紅院正義』から、

 直々に、


「記念品を贈りたいので、ついてきてくれ」


 と誘われた。


 セン的には、

 『フラグ的に、この誘いに対して、どうすべきだろうか』

 と、軽く悩みたかったところなのだが、

 しかし、

 その余裕を、与えられることはなかった。


 紅院正義は、

 有無を言わさぬ強引さで、

 センを車に押し込むと、

 そのまま、例のホテルへと直行。


 車内は、どちらも終始無言の重たい空気。

 その情景は、切り出し方を見失っているわけではない。

 お互い、『今』というあいまいな時間を利用して、

 純粋に『腹をくくりあっている』というだけの話。


 距離的に近い場所にあるので、

 数分でアッサリと到着。


 ホテルに先回りしていた『専属SP的な誰かさん』の誘導を受け、センと紅院正義は、例の会議室へと向かう。


 ――そこでは、

 例の300人委員会の面々が雁首揃えて待ち構えていた。

 湿度は軽いが、空気は重たかった。



「君が、怪盗ノゾ=キマで間違いないかしら?」



 最初に声をかけてきたのはゾーヤだった。


 別に、『そういう取り決めがあった』というワケではないが、

 つい、我慢できずに聞いてしまった、

 と言った感じ。


「自分で名乗っておいてなんだけど、その名前で呼ぶのやめてくれる? 決して、あんたらに認知してほしい名前じゃないんでね」


 そぅいいながら、センは、用意されたイスに腰かけると、

 尊大な態度で、アゴをクイっと上げて、


「正式に自己紹介とか、した方がいい?」


 その問いかけに対し、

 紅院正義が、小さく首を振り、


「その必要はないよ、閃壱番くん。君の基本情報を知らない者は、ここに一人もいない」


「俺が大会で優勝してから、ここにくるまでの、およそ15分間の間に、調べ尽くして、情報を共有した……みたいな感じ?」


「まさにその通りだ。より正確に言うのであれば、君が大会にエントリーした数分後には、すでに、君の情報は丸裸だった」


 『グループの傘下ではない参加者』は、

 エントリー直後に全員、調べ尽くされていた。


 もっと言えば、学校関係者は、ロイガー戦の直後から、

 ある程度、個人情報を洗われていて、

 参加者は特に徹底して念入りに調べられた、

 と言った感じ。


 とはいえ、

 今大会における『グループ傘下でない参加者』は、

 数える程度だったので、

 そこまで大層な手間でもなかったのだが。


「最初に、礼を言わせてほしい。娘を助けてくれてありがとう」


「あんたの感謝は聞き飽きた」


「……君に礼を言うのは初めてだと思うのだが?」


「俺は、この一週間を何度もループしている。その間に、俺は、あんたの娘を毎回と言っていいほど救っていて、だから、何度か、礼を言われている。よって、もう言わなくていい」


「……ほう」

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