5話 ネクストミッション、歪んだ形の『原初の愛』を紡げ。


 5話 ネクストミッション、歪んだ形の『原初の愛』を紡げ。


 晒した無様の具合が、あまりにもひどすぎて、

 センは、違う意味で泣きたくなってしまった。


 そんな悲惨な状態のセンに、

 ヨグシャドーは、たんたんと、


(学習しない男だな)


 静かに、辛辣な感想を述べた。


 その冷静すぎる言葉に、全力でイラっとしたセンは、

 『どうにかして、ヨグシャドーをどつきまわし、ひきずりまわして、ズッタズタのボッコボコにしてやりたい』と願ったが、

 しかし、武器の中に眠る概念を相手に、

 それを為すすべはない、ということは理解しているので、


(ぐっ……ぐぅ……なにをどうしたいんだよ、てめぇはぁぁ……っ)


 奥歯をかみしめながら、

 ヨグシャドーに答えをもとめる。


 すると、ヨグシャドーは、

 意味深な一拍を置いてから、

 とうとうと、




(――あの女共から憎まれろ)




 などと、奇天烈なことをいいだした。

 センは、その言葉の意味を、自力で理解しようと、数秒、セリフの咀嚼にいそしんだものの、けっきょく、何がなんだか分からなくて、


(……あぁ?)


 と、まっすぐな疑問をぶつけてしまう。


 ヨグシャドーは、

 あくまでも冷静な対応のまま、たんたんと、


(貴様は、原初の愛を拒絶した。あの女どもとツガイになることを否定した。20年、夫婦として生活しながら、貴様は、結局、あの女どもに一度も手を出さなかった。私の本体が召喚されてしまうという縛りがあった上でだ。私もアホではない。貴様は絶対に揺るがない。それがハッキリと分かった。だから、せめて、『憎悪(ぞうお)』で、深き関係を結べ。それでも、原初の愛は成立する。歪んだ形にはなるが、しかし、それもまた一つの象(かたち)となろう)


(……お前がたまにいう、その『原初の愛』ってのが、なんなのか、さっぱり分からんから、どう答えたらいいか分からんが……とりあえず、それが成立しないとどうなるか、その辺を教えてくれるか?)


(オメガを超えられない。より正確に言うのであれば……ルナが貴様を認めない)


(……いきなり、新キャラぶっこんでくんなよ。誰だよ、ルナって……人? それとも神?)


(そんなことはどうだっていい。とにかく、彼女たちからの憎悪を稼げ。徹底的に嫌われろ。そうすれば……貴様は、彼女たちを完璧に救える。より正確に言うのであれば、彼女たちからの憎悪がないのであれば、貴様は絶対に、彼女たちを救えない)


(……その発言が嘘じゃない証拠は? 正直な話、俺は、もう、お前を信用していない。どうせ、あとから『あれは嘘だ』って言ってくると確信している)


(疑うのは自由だが、これは事実だ。ためしてみるといい。可能性の一端を感じるはずだ。本当に、心から彼女たちを――この世界の全てを救いたいと願うのであれば、彼女たちの憎悪を受け止めろ。その覚悟がないのであれば、もう、死ね。その程度の気概もないカスに世界は救えない)


(……クソ嘘つき野郎が……無駄に煽りやがって……)


 ギリっと奥歯をかみしめてから、


(……まあいいか……憎まれるだけでいいなら、あいつらとヤルよりは、全然マシだ)

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