81話 こんにちは。
81話 こんにちは。
「どう? 最近の学校生活は」
奇妙な女性に、そう声をかけられた天童は、
恭しく背筋を伸ばして、
「はっ。なんの問題もなく、やらせていただいております」
「異世界人に襲われたことも、あなたにとっては何の問題もないこと?」
「はっ。おそれおおくも熾天使候補の誉れを預かっている私にとって、あの程度の面倒は問題の範疇に入りません」
「ふふ……素晴らしいわ」
「もったいないお言葉! 感謝します! しかし、それもこれもすべて、偉大なる我らが主のおかげでございます!」
二人の会話を、こっそりと聞いているセンは、
(偉大なる主……ねぇ。なるほど……あの女は、この世界の支配者で、その手ゴマとして、天童たち天使が存在しているってわけね……つぅか、天童、ものすげぇビビってんな……まあ、でも、そりゃそうか……あの『顔が見えない女』……ぶっちぎりでエグい圧力を放っているからな……)
――『主』は、天童のトイメンに腰をおろして、
紅茶のカップを、口元で軽く傾けてから、
「では、報告を聞かせてもらえるかしら。異端審問委員長さん」
「はっ」
そこで、天童は、ぬかりなく用意しておいた報告書を、
テーブルの上に、できるだけ見やすいよう全力で配慮しつつ、丁寧にならべながら、
「明確な軍規違反者は、この三名です。適切な処罰を与えるべきかと愚考します」
天童が確認した異端者の発言記録を読みながら、『主』は、
「あらあら、『くそったれの主を殺してやる』だなんて、ずい分と口が悪いわね。キチンと『適切』に粛清してあげなくちゃ」
流れるように、危険な香りのする会話を繰り広げる両者。
そんな二人の様子を横目に、
センは、
(天童は、最強格の天使候補でありながら、身内の失態を暴く内部調査員の役割もやっているのか……仕事熱心だねぇ)
などと思っていると、
「――ちなみに」
『主』が、少し低い声で、そう声を繋いだ。
その声に、天童は、
「はっ、なんでしょう」
緊張した面持ちで返事をすると、
「作楽トコは?」
『主』から、『作楽トコ』の名前が出た瞬間、
天童の顔に、汗が浮かんだ。
「……」
誰でも理解できる表情の変化を指摘することなく、
『主』は、たんたんと、
「指定監察官の評定だと、彼女は、稀に見る『世界全体』に対して憎悪を抱いているタイプの徹底した人間嫌いで、著しく協調性にかけるという判断をされているようだけれど? 異端審問委員長としての、あなたの意見は?」
「確かに、協調性は皆無です。人間嫌いなのもおっしゃる通り。しかし、上の命令には従順ですし、高校二年で尉官に到達しているので、天使としての資質は申し分ないかと」
「資質はどうでもいいから、粛清したいと言ったら?」
「……」
「どうしたの?」
「偉大なりし主よ。あれは私のペットのようなもの。何か粗相があった時は、どうか、飼い主である私にお申し付けいただきたく。必ずや『成果』でもって、その償いを――」
「質問の答えになっていないわ」
「……」
天童の額に汗が浮かんだ。
根源的な恐怖に包まれる。
だが、ここだけは引くわけにはいかず、
「どうか……」
「ずいぶんとお気に入りなのね」
「どうか……どうかっ」
「現段階では、何もするつもりはないわ。けれど、もし、なにか問題が起きた場合は、もちろん、責任を取ってもらうわよ。当然、あなたではなく、あの娘自身にね」
「……部下の失態は、隊長である私の――」
「下がっていいわ。引き続き、お仕事、よろしくお願いね」
「……はっ」
そう言って下がる天童の背中を見つめながら、
センは、
(……天童も、色々と大変そうだねぇ)
と、普通に同情した。
(絶対的支配者にいいように扱われて疲弊する毎日……しんどいだろうねぇ)
――と、心の中でつぶやきつつ、
(さて……どうしようかな……選択肢は二つある……どちらにしようかな……)
数秒だけ考えてから、
センは、
(……よし……)
決断すると、
魔法で、簡易な仮面を作り出し、
顔面に装着してから、
「……こんにちは」
彼女の前に姿を現した。
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