80話 高純度のフェイクオーラ。


 80話 高純度のフェイクオーラ。


(……この時計塔……確実に、ここは、重要施設だろ……『そうじゃなかったらおかしい』というレベルの雰囲気に包まれ過ぎている)


 仙草学園敷地内のちょうど中心部に建っている巨大な時計塔。

 教師ですら、立ち入りが許されない聖域。


(……教師も生徒も使えないって、じゃあ、誰が使ってんだよ……理事とかか? というか、本当に、イカれた雰囲気してんなぁ)


 その時計塔は、学校内に建っているとは思えないほど異様な外見をしている。

 放物線形の門扉には不規則にうねったドラゴンが象られ、

 門扉の真上にも、『惑星にからみついたヤマタの龍』を象ったシンボルがある。



(さて、と……それじゃあ、忍び込むか……)



 決意すると、センは、

 瞬間移動と認知阻害系の魔法を駆使して、

 扉の奥と忍び込む。


 ――中に入ると、途端、空気の質が変わった。

 剣形の窓にはステンドグラスがはめこまれ、

 窓と窓とを仕切るすべての柱に精緻で壮麗な彫刻がほどこされている。


 蓮を象った壁灯が品のよい淡い光を灯しており、頭上を仰ぐとアーチ形の天井のこっちから向こうまで、気が遠くなるほど繊細で壮大な天井画が描かれていた。


 神話を描いた天井画は、芸術に興味がないセンをも強く惹きつける。


(あの絵……なんか、どっかで、見たことがあるような、ないような……)


 七色に輝く鎧をまとった英雄が、

 漆黒と混沌を纏った化け物と対峙している絵画。


 何を示しているのか、まったく理解はできないが、

 しかし、不思議と惹きつけられる。


 数秒だけ、絵画を眺めていたセンだったが、


(おっと……絵なんかどうでもいい)


 すぐに自身の視点を改めて、


(とりあえず……屋上を目指すか)


 当然、エレベーターもあったが、

 しかし、瞬間移動を使って最上階を目指すセン。


 一瞬で最上階にたどり着いたセンは、

 認知阻害の魔法を使って自身の存在を影に溶け込ませながら、


 その場にいる『二人の人物』に視線をむけた。


 時計塔最上階にいたのは、

 二人の男女。


 一人は天童で、もう一人は、


(……体つきで女だとは分かるが、顔の上だけ黒い靄がかかっているから、識別は難しい……てか、ずいぶんとキショいヤツだな……)


 厳かなオーラを放つ女だった。

 ラインが出る網目の大きな紺のハイネックに、タイトなジーンズ。

 首から上は黒い靄がかかっており、声は合成音声。

 立派な胸と丸みのあるくびれがあるので、女性だろうとは認識できるが、

 それ以外は何もわからない謎深き人物。


(高純度のフェイクオーラ……俺の目をもってしても、見通せねぇ……あの女……おそらく、アウターゴッド級。……やはり、強者もいるか。俺の人生に、雑魚だけのヌルゲーはありえねぇ)


 確定ではないが、

 しかし、些細な身のこなし等から、

 センは、彼女が破格の存在であると看過する。


 ――と、そんな風に、分析をしていると、

 女の方が、天童に、


「どう? 最近の学校生活は」


 そう声をかけた。

 すると、天童は恭しく背筋を伸ばして、


「はっ。なんの問題もなく、やらせていただいております」

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