16話 そして、運命の日に……


 16話 そして、運命の日に……


「ゾーヤよ。情報を統制して、俺を中心とした宗教を禁止してくれ。なんか、各地で、俺教が出来ているが、俺は、教えを説く気は微塵もない」


 そんなセンの願いを、ゾーヤは、


「ははっ」


 と、ゆるい一笑で切り捨てる。


 ゾーヤは、センの願いを全て叶える気でいる。

 センが美食を望むなら、世界中から万単位で一流シェフを引っ張ってくる気でいる。

 センが世界を望むなら、あますことなく全て捧げる気でいる。

 センが這いつくばって靴を舐めろと言ってきたら、

 靴がふやけて熔けるまで舐めたいとすら思っている。


 ――しかし、彼女は、センが『社会的に不利益になる』ことは、センの望みだったとしても絶対にやらない。

 センエースは、頻繁に、

 『無駄に俺を称えようとするのをやめさせてくれ』

 と、彼女に願うが、しかし、その命令に対してだけ、彼女は絶対に頷かない。

 いつだって『ははっ』と、

 『またまたご冗談を』の表情で笑うだけ。


 彼女は、センエースが世界中の人間から崇拝されることを望んでいる。

 世界中のすべての人間がセンエースの高潔さを正しく理解し、崇め奉り、心底から愛することを望んでいる。


 『世界中の人間から愛される』ということに対し、『センエース自身がどう思うか』というのはどうでもいい。

 彼女は、センエースほどではないが、しかし、だいぶワガママな女なので、

 自分がやりたいと思ったことは、たとえ、王に反対されても関係なく突き通す。


 それが彼女の進む道。

 彼女の哲学。


 ゾーヤの尽力の甲斐あって、

 世界中から賞賛されるようになったセンエース。


 その事実を前にして、センは当然、


「……うーわ、えっぐぅ……」


 真っ青な顔で、天を仰ぐ。

 アウターゴッドを前にした時よりも絶望した顔。

 アウターゴッドという絶望なら、

 覚醒するなり殴りつけるなり、

 色々と対策手段もあるのだが、

 しかし、この状況下において、対策の方法など皆無。


 いや、もちろん、たとえば、テレビとかの前で、

 理不尽に暴れ散らかしてみせれば流れは変わるだろう。

 テキトーに見つけた子供を、端から、なぶり殺しにしていけば、

 センエースの評判を下げることは可能だろう――が、

 しかし、信条的な問題でそれは出来ない。


 あと、実は『空気が読める子』であるセンは、

 『目をキラキラさせながら、センの評判のために尽力するゾーヤ』を、

 強引に『首を絞めてでも止める』ということも出来ない。


 あと、単純に、センはゾーヤが苦手だった。

 彼女のオツボネ感にはウッとなる。


 もちろん、殴れば殺せるわけだが、

 しかし、コトは、そういう問題ではなく、

 『対話がメインの人間関係』という特殊領域において、

 センは、彼女にボロ負けしていた。


 なんだかんだ、

 色々と、

 すったもんだあった末に、

 センは、


「――まあ、いい。どうせ、リセットされる。それまでの我慢だ。たった数日、我慢すればいい」


 と、

 人類が全滅して銀の鍵を使いリセットすることを、

 『救い』のようにとらえていた。

 すがっていたと言ってもいい。



 ――しかし、

 時がたち、

 『運命の日』が訪れても、

 剣翼が舞うことはなかった。



「はぁ? え? どういうこと?」

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