75話 過保護はやめようか。

 75話 過保護はやめようか。


「……だいたい見えてきたな……」


「それで、どうします? この宝箱、誰があけますか?」


 そこで、トコが、


「閃以外ならだれでもエエ。というか、閃だけは絶対に開けんな。『開けたヤツに大ダメージが入るワナ』がたまにあるからなぁ」


「過保護はやめようか。同級生の女子高生から過保護をくらうとか、精神的に、しんどすぎて、たまらん」


「アホか。過保護とかやない。あんたに、死なれたら、世界中が困るってだけの話や」


 と、そこで紅院が、


「私があける」


 と言いながら、トランスフォームをする。

 変身した状態なら、防御力も大幅に上がっているから、ダメージ系でも、そこまで大きな問題はない。

 いや、ないこともないが、この中で、一番、被害が少ない。


 まあ、実際のところは、ツミカの方が『高位のトランスフォーム』を使えるので、

 一番被害が少なく済むのは彼女なのだが。


「全員、ある程度の距離をとって」


 全員に、離れるよう命令を下し、


「……厄介なワナではありませんように……というか、そもそも、ワナじゃないパターンで、どうかよろしく」


 そう願いながら、紅院は、ソーっと宝箱を開けた。


 しかし、宝箱の中身はカラだった。

 厳密には、宝箱の底に、ジオメトリが刻まれており、

 紅院が、『宝箱の中身はカラである』と認識した直後、

 そのジオメトリは、カッっと、強い光を放った。


 その瞬間、




 紅院の視野がグニャリとゆがむ。






「っ……ぁっ」






 視界の歪みは、数秒程度でおさまった。

 意識が完全な状態に戻ってすぐ、

 紅院は、バっと後ろを振り返る。


 先ほどまで、すぐそこにいた仲間たちの姿はなかった。



「……ちっ」



 現状を認識すると同時、

 紅院は、軽く天を仰ぎ、舌打ちを一つ。


「転移のワナか……」


 小声で、ボソっと、そう言いつつ、

 携帯ドラゴンを召喚し、

 トコに連絡をつけようとしたが、


「……通じない……次元ロック……ジャミング……どれが理由か知らないけど、とにかく通信は無理……と」


 状況を精査しながら、


「閃壱番がシャワールームに飛ばされた時も……こんな感じだったのかな」


 などと、どうでもいいことをつぶやきつつ、

 紅院は、周囲を観察する。


 ここは、教室サイズの何もない立方体の空間で、

 四方には、それぞれ、扉が一つずつ設置されていた。



「東西南北……どれかを選んで、ゴールを目指せ……みたいな感じ?」



 この空間の構造を推察しつつ、

 紅院は、テキトーに選んだ扉を開ける。


 すると、扉の向こうには、

 まったく同じサイズの空間が広がっていた。

 そして、同じように、4つの扉。


「……正解のルートを見つけるパターン……かな?」


 などとつぶやきつつ、

 紅院は、最初に飛ばされた空間に戻り、

 違う扉を開けてみる。


「……同じサイズの立方体が無数に並んでいる……みたいな構造かな……」


 極めて冷静に、

 周囲をうかがいながら、

 自分の状況を整理していく。


「すー……はー……落ち着け、私……出口はきっとある……どこかの扉が、外につながっている……はず……」

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