40話 フラグ。


 40話 フラグ。


 死にゆく間際、

 才藤は、

 己の全てを振り絞り、




「――絶対に……諦めねぇ――」




 生命力をフルで暴走させる。

 憤怒の中に全てを込める。


「MPはもう尽きているのに、まだそれほど輝けるか……すごいね。オーラが圧縮されていくのが分かる。しかし、それじゃ、届かない。それじゃダメだ」


 言われなくてもわかっている。

 そう言いたげな目で、

 才藤はソルをにらみつけ、


「俺は祈る……」



 全ての魂魄を解放する覚悟。

 死を飲み込んで、

 もっと前へ、

 もっと向こうへ。



「俺の拳が、混沌を裂く光になりますように」



 祈りをささげてから、

 ニィと、黒く微笑んで、


「ぼくちゃんは……聖なる死神……ぼくちゃんの全部を、この拳にかける♪」


「最後の最後まで痛々しいね。けれど、だからこそ強く輝く。……君の願いを叶えよう。君の拳は、君の覚悟によって、常識を超えた力を手に入れた。さあ、くるがいい。君の全てをうけとめてあげるよ」



「聖なる死神の芸術を見るがいい♪ さあ、華やかに死んじゃえ……『メギドグリムアーツ・セイバーゼノリカレント』っっ!!」



 強力な体術。

 覚悟の全てを込めた、芸術的一撃。


「うぉっと」


 その拳は、

 ソルの腹部をさらっていった。

 細胞が消滅する。

 オーラが削られる。


 間違いなくダメージを与えた。


 ――しかし、


「うん……いい一撃だった。本当に……美しい一手だった。君の人生、君の地獄、君の想い、すべてが一点に集中していた」


「……」


「覚悟を込めた体術の極限……グリムアーツ……いいね、かっこいいよ。君らしさが詰まっている、いい厨二技だ。どこかで使わせてもらうよ」


 ノーダメージではなかった。

 才藤の拳は、ソルの腹部を貫いた。

 しかし、ソルは、軽く血を吐いただけで、

 死に至るほどのダメージは受けていない。



「がは……くそったれ……くそっ……た……」



 意識が遠のいていく。

 意識が熔けた分だけ、憤怒が増していく。

 自分に対する怒りが止まらない。

 結局、何もできなかった。

 その後悔の底で、

 才藤は気づく。


「……? ……ぁ……あれ……は……」


 才藤の目の前に『扉』が現れた。

 その扉は、キィと音をたてて開く。


 扉の奥から現れたのは……



(あいつ……確か……)



 20年以上前のことを思い出す才藤。



(……『真理の迷宮』のチュートリアルを一緒にやって……そのあと、消息不明になったヤツ……名前……なんだっけ……確か……セン……だったか?)


 下の名前までは流石に憶えていないが、

 上の名前だけは、かろうじて憶えていた。


 ――そのセンは、

 ボロボロで地に伏している才藤を見つけると、



「……なんか、大変そうだな。死にかけているじゃないか。ご苦労さん」



「……今まで……どこに……」


「この最奥の隣にあるデバッグルームで、この迷宮の開発者と殺し合っていた。いやぁ、しんどかったよ……まあ、でも、20年間、ひたすら闘い続けるっていうのは、すでに経験済みだったから、慣れたものだったけどな」


 ググっと、ストレッチをしながら、

 センは、周囲を観察する。


「もしかして、この世界、終焉間近的な感じ?」


「……というより……もうすでに終わった……」


「あ、もう終わってるんだ。じゃあ、お前、何してんの?」


「……無駄な抵抗を……しているだけ……」


「あ、そうなんだ。大変だな。ご苦労さん」


「……軽いな」


「重くても動きが鈍くなるだけだからな」


 などと、ファントムな言葉を口にしてから、


「さてと……詳細は知らんけど、どうせ、あいつをぶっ殺すってのが、元の世界に戻るための『条件』だろうから……サクっと殺すか……この20年で、俺は、えげつないほど強くなれた。もはや、俺に敵はいない。俺がガ〇ダムだ」

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