14話 あまりにも姦しい共同生活。


 14話 あまりにも姦しい共同生活。


「おどれ、何を、勝手に、あたしらの離婚届を書いてんねん! それも、これ、筆跡、メチャメチャ真似てるやないかい! 軽いギャグとかやなくて、ガチの本気で離婚させにかかっとるやないか、このくそぼけぇえ!!」


 状況を理解したトコは、即座に、

 センの手の中から、用紙を奪い取り、

 グシャグシャに丸めてから、茶柱に投げつける。


 投げつけられた離婚届を、華麗にキャッチした茶柱は、

 丸められた離婚届を伸ばして、名前を確認し、


「ああ、名前を間違えてしまったにゃ! ツミカさんは、ウッカリさんだから、たまにこういう小さな可愛らしいミスをしてしまうのにゃ。いやぁ、困ったもんだにゃ。悪意のないミスは、これだから始末が悪いにゃぁ」


「悪意の権化がぁ! おどれは、ホンマに、油断もスキもないのう! この男を相手にする場合に限り、共同戦線を張ろうと約束したやないか! 忘れたんか!」


「もちろん、覚えているにゃ!」


「ほな、最悪にタチわるいやないか! なにを、すがすがしい顔で、ナメちぎったこと、ほざいてくれてんねん!」


「ツミカさんは、自分の欲望に忠実で、実は腹黒! それがツミカさんの燃えるようなジャスティス!」


「正義なめんなよ! あと、『実は』もクソも、おどれの腹が『まっ黒』なんは、ここにおる、全員が、寸分の狂いもなく、見事に、ご存じつかまつっとるわい! というか、初対面でも、一分くらい話せば、だいたい分かるぅううう!」


 ブチギレているトコ。

 飄々としている茶柱。

 朝から騒いでいる二人をなだめる紅院。

 低血圧でダルそうな黒木。


 とても騒がしい朝。

 大きな窓から太陽の光が降り注ぐ室内で、

 センは、四人の妻を見つめながら、


「……ああ……しんどい、しんどい……」


 口癖になってきた弱音を吐きこぼす。



 ★



 起きてから学校に向かうまでの間、

 どうにか『独りの時間』を確保しようと、

 色々と抵抗を試みてみたものの、

 今日も、昨日と同じで、

 ヨグシャドーの魔の手が、

 センの行く手を全力で阻んでくる。


 『ちょっと、一人でコンビニに行ってくる』という、

 ゆるやかな一手すら決して許されない。


(……なみなみならぬ運命が、貴様に、『逃げちゃダメだ』とささやいている)


(やかましぃいいいいいいいいい!)


 結局のところ、

 紅院家のリムジンで、学校に向かうことになったセン。


 リムジンの中でも、

 彼女たちの姦しさが留まることはなかった。

 たまに、『世界情勢に関する重要なこと』を話し合ったりもするが、

 基本的には、クソどうでもいいおしゃべりが大半を占めている。


(しっかし、ずーっと、しゃべってんな、こいつら……)


 マシンガントークが止まらない彼女たちを横目に、

 センは辟易した顔で、天を仰ぐ。


 これまでの、ループ生活の中で、

 彼女たちが、おしゃべり大好きということは、

 普通に理解していたが、

 改めて突きつけられたことで、

 その『しんどさ』を強く理解する。


(よくわかった。……俺、女と生活するの、無理だな……このやかましさの中では生きていけねぇ)


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