15話 f分の1のノイズ。
15話 f分の1のノイズ。
(よくわかった。……俺、女と生活するの、無理だな……このやかましさの中では生きていけねぇ)
確信に到るセン。
心の中で、ブツブツと、
(異次元砲に対する耐性とかなら、もしかしたら、あるかもしれないが、婚姻生活に関わる耐性はゼロに等しい……)
異次元砲は、無属性&貫通属性の魔法で、
固有の耐性などというものは存在しない。
これまで、通算10年以上、神話生物に関わってきたセンは、
当然、異次元砲の性質について、おおよそ理解している。
異次元砲の性質を、それなりに理解した上で、
それでも、センは、自身の婚姻生活耐性に対し、
『異次元砲耐性よりも下である』と確信した。
(俺は真理を得た。俺には、向いていない。あまりにも。俺は、誰かと生きることはできない。俺は泳ぎ続けていないと死んでしまうマグロみたいなもの。立ち止まると窒息してしまう。『ワガママな自由』という大海で、『孤高の道』をひた歩むことだけが、俺を生かす唯一の道……今回の試練は、それを俺に理解させるための地獄だった。ああ、そうだ。俺は悟った。俺は俺を理解した。これで、俺は、もう一歩、先に進むことができる。この理解が大事だった。ありがとう。すべての運命に感謝する)
真理を会得したセンは、
図虚空の中にいる『神の頂点』に向けて、
(――『並々ならぬ運命』よ。俺は全てを理解した。だから、もう大丈夫。俺は命の答えを得た)
穏やかな目をして、
高位の修行僧のように、
色即是空を体現したような言葉を並べるセンに、
『外なる神の頂点』は、
非常に冷めた声音で、
(――『悟った気になっているだけの輩』ほど痛々しいものはないな)
バッサリと切り捨てる。
その直球すぎる態度に対し、センは、
プルプルと、羞恥と怒りに震えつつ、
(いい加減にしろ、虹色! 俺を解き放て! もうイヤだ! 辛い! しんどい! 俺が苦しんでいるのがそんなに楽しいか! くそばか! ゴミやろう!)
『悟り』とは、ずいぶんと、かけ離れた喧噪でもって、
ヨグシャドーを非難するセンに、
ヨグシャドーは、
(世界の終わりを回避するため、多くの助言とサポートをしてやっている私に、なんたる言いぐさ)
(おもしろがっとるだけやろがい!!)
心の中で叫びながら、
センは、頭を抱えて、深いタメ息をつく。
誰にも邪魔されず、自由で、静かで、豊かで、救われているような生活を望むセンにとって、彼女たちとの婚姻生活は、脳脊髄液がはじけ飛ぶレベルの強ノイズだった。
ただ、どこかで、
(――間違いなくノイズなのに……『ただのノイズ』とも言い切れない何かを……今の俺は感じている……それが……何よりもダサくて、ダルい……)
時折、心が震えるのだ。
この『揺らぎ』を、『幸せ』と表現することも、
おそらくは、出来なくもないだろう。
などと、センは、自分の感情に対して整理をつけようとする。
自分が何に対してどのような想いを抱くのか。
そこに、正確な言葉をもってこようとするのは、
おそろしく難しい話というか、
結局のところは、ナンセンスな愚考。
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