16話 ファントムファンタジア。


 16話 ファントムファンタジア。


(……間違いなくノイズなのに……『ただのノイズ』とも言い切れない何かを……今の俺は感じている……それが……何よりもダサくて、ダルい……)


 センは、現状の自分に降り注いだ『揺らぎ』に対して、

 それこそが『幸せ』である、という一縷(いちる)の可能性を見出したが、

 しかし、本当にそうであるかは分からない。


 そもそも、人間が、一現象に対して、単一の感情のみを抱くことなどありえない。


 たとえば、『自分の子供が生まれた』という一点に注視してみても、

 どれだけ、千差万別かつ複雑怪奇であるかがよくわかる。


 自分の子供を命がけで溺愛する者もいれば、

 コンビニのゴミ箱に捨てる者もいる。


 現状だと、どっちが悪いとか正しいとか、そういう問題ではない。

 ある意味で、どちらも歪んでいるのだ。


 ――などといった具合の『グチャグチャな思考ループ』を、

 センは、心の中で、ぐだぐだ、ぐだぐだ、ぐだぐだ、

 現実逃避に余念がない。


 とにもかくにも、目の前のリアルから逃げることに必死。

 物理的な逃亡こそ難しい状況に堕ちているが、

 しかし、精神的に、彼女たちから距離をとるだけなら出来るのではないか。

 そう考えたセンの必殺技、

 それこそが、この『ファントムファンタジア』である。


 ファントムトークの進化系といっていいのが、

 それとも退化系といっていいのか、

 その辺は、ちょいとばかし不明だが、

 とにもかくにも、センは、

 『彼女たち』と『自分』の間にある『精神的な距離』を、

 一ミリでも伸ばそうと必死になる。


 ――が、そんな抵抗など、


「センよ……ジブンも、ちょっとは喋れや。つか、なんで、ずっと、ラリったような顔してんねん」


「ラリった顔って、ひどすぎるだろ……ただの無表情なんだが?」


「それがただの無表情って、ナメとんのか」


「ナメてんのは、てめぇの切り口だ。鋭角すぎて、心折れる」


 あまりにも無意味。


 彼女たちがその気になれば、

 センが必死になって伸ばした精神の距離を、

 秒で詰め寄ることができる。


 トコは、センの肩をバシバシとしばきながら、


「ジブン、死ぬほど強いのに、なんで、こんなモヤシみたいな体しとんの? どういうこと?」


「それは、あれだ。あまりにはやく動きすぎると、逆に、ゆっくりに見えてくる例のアレだ」


「どういうこと? 鍛え過ぎたら、逆にモヤシに見えるって言いたいん?」


「まあ、そういうことだ。本当の俺のボディは、バキバキなんだが、お前らの動体視力の問題で、ショボく見えている。それだけの話」


「なんでやねん!」


 おそろしくシンプルなご指摘をいただいたセン。


 ツボに入ったのか、トコは、ケラケラと楽しそうに笑っている。


 そんな二人のイチャイチャが、激しく気に入らない茶柱は、

 センの心臓に、ノーモーションでコークスクリューのグーパンをいれていく。


「いったいんですけどぉっ?! 俺の大事な心臓が止まったらどうするぅ?!」


 普通にキレて文句をつけていくセンに、

 茶柱は、不愉快そうな顔で、


「今のはヤムチャの分! そして、これは、チャオズの分にゃ!」


 などと叫びながら、二発目のグーパンをいれてくる茶柱に、

 センは、ブチギレ顔で、


「ナッパに言え! 俺は、チャオズにもヤムチャにも、なんもしとらん!」

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