14話 十把一絡(じっぱひとから)げの賑やかし。


 14話 十把一絡(じっぱひとから)げの賑やかし。



(忘れていたわけじゃないが、あらためて思い知らされたよ。世界ってのは、どれも、記号じゃねぇ……空っぽの箱庭なんかじゃねぇんだ……)


 別に、見失っていたわけではないが、

 しかし、何度も『同じ一週間』を駆け抜けてきたせいで、

 色々なものが、見えづらくなっていたのは確かだった。


 佐田倉との時間は、

 自分が『何のため』に駆け抜けているのか、

 その点を再認識できた時間だった。


 『命』の意味を改めて思い知る。


 十把一絡(じっぱひとから)げの、ちょっとした賑(にぎ)やかし。

 『誰かの人生』では、『それで終わる人』も、

 『他の誰かの人生』においては、重要なポジションを得ている。


 それが人間。

 程度の差はあれば、

 本質の形状に違いはない。


 『個性がない人間』など存在しない。

 『歴史を持たない人間』などありえない。


 いい意味でも、悪い意味でも、

 『無意味な命』は存在しない。


 誰もが必死に生きている。

 『毎日』というハードルと、全力で向き合っている。



(誰もが必死に生きている『今日』を守るために……今日を必死になって生きるに値する『明日』のために……)



 別に。

 そのためだけに拳をふるうわけではない。

 けれど、

 『ソレ』が『センエースを動かす理由』の『一つ』であることは、疑いようのない事実。


 今日を必死になって駆け抜ける理由。

 明日を追い求める確かな要因。


 『残酷な時間』と向き合い続けた真意。



「兄(あに)さん」



 気分転換も必要だと連れられたドライブ。


 海岸沿いのファミレスでコーヒーを飲みながら、

 海に沈んでいく夕日を二人で見つめつつ、

 佐田倉は、



「あなたが必死になって守ってくれた世界は……こんなにも美しい」



 などと、唐突にエモいことを口にした。


 『恥ずかしげもなく、そんなセリフを吐いた佐田倉』に、

 センは、


「……守れてねぇから、バカみたいに、何度も、タイムリープしてんだよ」


 照れ隠し全開の直球で返す。

 そんなセンに、佐田倉は、まっすぐな目で、

 ゆっくりと沈んでいく夕日を見つめたまま、


「あなたの功績の場合、結果よりも過程の方が重要だ。あなたはスゴイ。俺は、あなたのことを、この世で最も尊い存在だと思う。尊敬します」


「そうか。じゃあ、この店のコーヒー代、驕ってくれ。あと、金かしてくれ。パチンコと風俗にいってくるから」


「もちろんです。ウチの財産を全て、自由にしてくださって結構です」


「気づこうか、佐田倉氏。俺は、今、『この世で最も尊い人物が絶対に言わないこと』の『正解』を口にした」


「流石です。兄さんは決して間違わない」


「……はぁ」


 しんどそうにタメ息をつくセン。


 何を言っても無駄な佐田倉に、

 センは、全力で辟易しつつ、

 コーヒーを飲み干して、


「そろそろ夜が始まる……」


 太陽の頭だけが海に輪郭を残している。

 夜と夕方の間。

 センの視点の先で、

 限りなく紫に近い紅が、

 ジワジワと黒に溶けていく。


「さて、と……それじゃあ、俺は行くから……」


 そう言って、

 センは、瞬間移動で、時空ヶ丘学園に向かった。


 隣のテーブルでカレーを食べていた男が、

 たまたま、センが瞬間移動する瞬間を見ていて度肝を抜かれていた。


 残された佐田倉は、センが腰かけていた席に向かって、


「お疲れ様です」


 そう言いながら、深々と頭を下げた。



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