38話 低身長、低収入、低学歴。


 38話 低身長、低収入、低学歴。


(やるしかねぇ……ノンビリ二か月後に帰って、世界が終わっていました、銀の鍵も消滅しています……そんな展開になったら、目もあてられねぇからなぁ)


 覚悟を決めると、

 センは、


「……本選は明後日だが、一次予選は、2時間後……なんという、都合のいいスケジューリング。まるで、尺に余裕のないアニメのようだ」


 などと、どうでもいいことをつぶやきながら、

 センは、予選の会場へと向かった。


 ――『これから、ラピッド兄さん級の化け物と戦わなければいけない』と考えると、

 普通に全力でゲンナリするが、

 しかし、それでもセンが歩みを止めることはない。


 いつだってそう。

 センには『本当に苦しい現実』を前にして、

 『それでも』と叫べるだけの気概がある。


 だから、今日まで歩いてこられた。

 だから、明日に向かって歩き出すことができる。




 ★




 ――予選の会場は広く、

 観客も、それなりの数がいた。


(……さすがに、賞金の額がデカいから、出場者も多いな……)


 およそ、200人ほどの参加者が予選会場に集まっており、

 その全員が、イカつい存在感を放っている。


 単なる『筋肉ダルマの集団』といった感じではなく、

 誰もが、キレッキレに仕上がっていて、

 魔力と気力も十分で、かつ、

 覚悟と根性というドーピングでバッキバキにキマっている、

 そんな『イカれた変態たち』の群れ。


 そんな中に混ざっているセン(ヒョロガリ)は、

 完全に異質で、周囲から普通に浮いていた。


 ――ゆえに、


「……おい、そこのチビ……お前、マジか?」


 筋骨隆々のデカブツから、

 センは、そんな声をかけられた。


 ラピッド兄さんの時と同じで、

 『バカにされている』というより、

 『呆れ全開』という顔。


 ちなみに、センの身長は、日本の高校生の平均とほぼ同じ。

 ゆえに、『日本の高校生』としてはバリバリ普通だが、

 現在、この会場にいるのは、

 大半が『180センチオーバー』で、

 中には、2メートル超えの巨漢もいるので、

 相対的には『チビ』で間違いがない。


「……フェイクオーラ……を使っているという雰囲気でもないな……その、イカれた弱さ、お前の素だよな?」


「フェイクオーラ? そんな高等技術が、この俺に使えるとでも? ナメんなよ」


 そう切り返すと、

 筋骨隆々の男は、さらに呆れ顔を浮かべ、


「……いったい、どういうつもりだ? 格式高き『バロール杯』を愚弄しているのか?」


 今度のセリフもまた、

 『センをバカにしている』というよりは、

 『純度の高い怒り』がこぼれているといった感じ。


 そんな彼の怒りに対し、

 センは、柳のように、


「どういうつもりも、こういうつもりもない。俺は、いつだって、むき出しの俺であり続けるだけ。それ以上にも、それ以下にもなれない」


「セリフだけは、無駄にカッコいいんだが……中身がまったく伴っていないな……」


 あまりの『しょうもなさ』に、うんざり顔をする『筋骨隆々の男』に、

 センは、ニヒルな笑みを浮かべて、


「ふふん、青いな。あんたは、何も見えていない。ま、でも、予選が始まれば、すぐにわかるさ。俺という人間の、本当の恐ろしさが。――俺はヤバイ。何がどうとは言えないが、とにかくヤバい」


「……あ、そう……」


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