81話 ダレカタスケテ。

 81話 ダレカタスケテ。


「ダレカ……タスケテ……」


「モロい命だ。弱さをまき散らし、他者に救いを求めるだけの無能。貴様の命には、なんの価値もない。貴様は虫ケラの中でも、特に質の低い虫ケラと言わざるをえない」


「……イタイ……イタイィ……」


「もっと哭(な)くがいい。もっと、もっと……その歌だけが、私を慰める。私は、特に傷心しているというわけでもないが、しかし、時折、無性に慰めを求めてしまう。悪い癖だ。反省、反省」


「……タス……ケ……」


「――神の慈悲――」


 気絶しそうになったところで、

 ツァールは、また、回復の魔法を使い、

 紅院の体と精神を強制的に、

 『フラット』な状態まで戻す。


「ぶはっ! はぁ……はぁ……ああ、痛い痛い痛い痛いぃいい! いい加減にしてよ! 痛い! 死なせて! お願いだから! もう耐えられない!!」



「くく、心配するな、紅院美麗。命の限界というのは、『もう無理だ』と思うところよりも、はるか先にあるものだ」


「お願いだから……やめて! 苦しい! 痛い! 壊れる! 私の全部が壊れる!」


「壊しているのだから、壊れてくれないと、なんにも面白くない」


 そういいながら、ツァールは、

 紅院の臓器をかき乱していく。


「あああああああああああっっ!!!!!」


「貴様の命に、さらなる絶望を与えよう。――神のイタズラ――」


 ツァールは、さらに、

 紅院の命を壊していく。


 魔法を受けた紅院の肉体は、

 ギュギュっと収縮していき、

 顔つきも、かなり幼いものになっていく。


「……な、なに……これ……」


 『幼児化』した紅院に、

 ツァールは、


「――『神経系統が未熟』で『絶望に対する耐性値』が最も低く、かつ、『苦痛や不安に対して過剰なほど敏感』な時期……『幼少期』にまで戻ってもらった。もっとも、『魄(CPUとハード)』を戻しただけで、『記憶(メモリ)』はそのままにしているがね」


「うぅ……うぅうう……」


 胸いっぱいに広がっていく『言語化できない不安』。

 7歳程度の幼女の姿になった紅院は、

 現状の『爆裂な激痛』と『無制限の畏れ』に、

 わずかも耐えることができず、


「――ぁっ……」


 一瞬でぶっ壊れた。


 そんな彼女の胸から手を放し、


「――神の慈悲――」


 紅院の全てを、幼女のまま『ほぼ完全に元の状態』に戻すと、


「さあ、紅院美麗。鬼ごっこをしようじゃないか」


「ひっ……ひっ……」


 脳も体も回復したが、しかし、

 『叩き込まれた恐怖心』だけは残されているので、

 紅院(幼女)は、


「ひぃいいい!」


 転びそうになりながら、

 必死になって、ツァールから逃げ出そうと走り出す。


 肉体が7歳程度に戻っているため酷く遅い。


「アレス! たすけて!」


 携帯ドラゴンに救いを求めるのだが、


「きゅ……きゅい……」


 疲れ果てているような声を出すだけで、

 特に何もしてくれない。


 実は、ツァールから拷問を受けている間、

 ずっと自動の『生命維持』機能が働いており、

 そっちに対してリソースを裂きすぎてしまったせいで、

 現在は、ただの『ハンパにデカいだけのトカゲ』になりさがっている。


「誰でもいいから、助けて! お願い! こわい! こわい! こわい!!」


 ボロボロと涙をながしながら、

 ヨタヨタ、ヨタヨタと、

 何度も転びそうになりながら、

 必死になって、ツァールから逃げようとする。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る