48話 全てを奪い取る。


 48話 全てを奪い取る。


「……う、腕がなければ、殴れねぇとでも?」


「腕が無ければ殴れないだろう」


「……ああ、殴れはしねぇ……けど、生きている限り、攻撃は、いくらでもできる」


 そう言いながら、センは、

 まがまがしいナイフ――『図虚空』を召喚して、

 それを、


「はぐっ」


 勢いよく口にくわえると、


(――龍牙一閃――)


 足に力を込めて、空を駆け抜ける。

 貪欲に、愚直に、『今の自分』にできる『最強』を追い求めて、

 ヨグに挑み続ける。


 センの猛攻を、

 ヨグは、軽くいなしていく。


 相手になっていない。

 まさに、子供と大人。


 レベルに差がありすぎた。

 ヨグはあまりにも強すぎる。

 というか、

 現時点のセンが弱すぎる。


 あれだけ頑張って、

 あれだけの時間を積んで、

 あれだけの覚醒を果たして、

 何匹ものアウターゴッドを重ね着して、


 ――それでも届かない世界が、確かに在る。



「ぐぁああああっっ!」



 雑にあしらわれている中で、

 センは、足に激痛が走ったのを感じて目を向けてみた。


 気づいた時には、両足が切断されて、

 血がダラダラとあふれていた。


 四肢をすべて飛ばされたと理解したと同時に、頭がクラっとしたが、


「ぐっ」


 図虚空をかみしめることで、どうにか自我を保ち、

 魔力で足の止血をすると、


(天童……才藤……しっかり、俺を支えてくれよ……)


 自分の背中に顕現している剣翼に、そう言ってから、



(――神速龍牙一閃――)



 剣翼のブーストを頼りに、

 口にくわえたナイフをきらめかせるセン。


 より速く、

 より強く。


 とにかく、ヨグをどうにかしようと、

 必死になって舞う閃光。



「両手両足を失ったぐらいで折れたりしない……そんなことは分かっている」



 極めて静かな声で、そう言いながら、

 ヨグは、タクトをふるように腕を薙いだ。


 切り落としたセンの腕を魔法で操作して、


「――閃拳――」


 そうつぶやくと、

 宙に浮かされたセンの腕が、

 ギュウっと、力強く拳を握りしめ、

 センの心臓めがけてロケットパンチ。


「だっはぁああっ!!」


 センの胸を貫くセンの拳。

 あまりの衝撃で、センはくわえていた図虚空を離してしまった。


 ヨグの魔力で強化された『センの腕』によるロケットパンチは、

 DPSの数字だけで言えば、センが使う『閃拳』を大幅に超えていた。




「ぅ、がっ…………か、返せ……俺の心臓……」




 死にかけの声で、そう言ったセン。


 センの胸部を貫いた『センの腕』は、

 ちぎり取った『センの心臓』を掴んでいた。


 宙に浮かんでいるセンの腕。

 その手の中で、ドクドクと脈打つ心臓。


 あまりにも奇異な光景。

 とてもじゃないが、単なるテンプレとは呼べなかった。


 ヨグは、『センの腕』から『センの心臓』を奪い取ると、


「両手両足と心臓を失ったわけだが……さあ、どうする、センエース」


「ぁ……はぁ……ぁあ……」


 目がかすんでいるセン。

 言葉を紡ぐこともできない。

 残っている魔力でどうにか血液をまわすことで、

 なんとか命を繋いでいるものの、

 心臓を失ってしまった以上、

 それだって、もはや、長くはもたない。

 魔力でまかなうのにも限界がある。


 魔力とは、あくまでもサポート要員。

 メインの代役が張れるわけではない。

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