49話 ((お前の命令を聞かなければいけない理由が、俺にはなさすぎる))


 49話 ((お前の命令を聞かなければいけない理由が、俺にはなさすぎる))


「両手両足と心臓を失ったわけだが……さあ、どうする、センエース」


「ぁ……はぁ……ぁあ……」


「ご覧の通り、私は無傷だ。これからダメージを負う予定もない。逆に、貴様は息も絶え絶えで、今にも死にそうな様子。誰がどう見ても、すでに終わっているこの現状で……さて、貴様はどうする、センエース」


「……」


 質問にこたえる前に、

 バタリと、センはその場に倒れた。


 目の前が灰色になっている。

 体に力が入らない。


 ――けれど、そんな状況でも、

 センは、


「ぐ……ぅう……」


 地面に落ちていた図虚空の柄をくわえた。

 まったく力が入らないが、しかし、それでも、

 センは、図虚空をくわえる。


「一つ聞きたい。今一度、図虚空をくわえなおした理由はなんだ? まさか、まだ、そのナイフの刃を、私に届かせる気か?」


 ヨグの問いに、

 センは応えることができない。


 図虚空をくわえているから喋れない、

 というのも、もちろん、理由の一つだが、

 それ以上に、


(……自分でも……わからねぇよ……)


 自分の気持ちがわからなかった。

 なぜ、これだけの絶望的状況下でも、

 自分は、まだ、必死になってあらがおうとしているのか。


 その理由が、セン自身にもさっぱり分からない。


(でも……そんなのは……今に限った話じゃねぇ……)


 これまで、ずっとそうだった。

 これまでの数十年。

 もっといえば、

 その何倍、何億倍もの時間、

 ずっと、そうやって、生きてきた。


(だから、どうだっていい……理由なんざ、特に重要じゃねぇ……)


 心の中で、

 そう結論づけると、



(……才藤……天童……力を貸せ……限界を超えて、俺を支えろ……)



 自分の背中で輝く剣翼に、

 そう命令をするセン。


 その命令に対し、才藤と天童は、

 声をそろえて、


((お前の命令を聞かなければいけない理由が、俺にはなさすぎる))


 と、そんな反骨精神で返してきた。

 各世界の主役級は、どいつも、こいつも、プライドが高すぎる。


 二人の鬱陶しい反論を、センは、


(うっせぇ、カスども……理由ならある……てめぇらは、俺に、とんでもないキン〇ボンビーを押し付けた……その償いを……今、ここでしろ……)


 良心の呵責にうったえかけるセン。

 そこを引き合いに出されてしまっては、

 二人とも、ぐうの音も出ない。

 だから、


((……やれやれ、仕方ないな……))


 と、予定調和の諦観でもって、

 心を統一させていく。


 この三人の魂は、あまりにも性質がバラバラすぎて、

 決して一つになることなどはありえない。


 だが、同じ方向を向くことはできる。

 今は、それだけでも充分だった。


 三人は、心を整えていく。

 自分たちが血ヘド吐くほど積み重ねてきた全部を、

 ゲロ吐くほど磨き上げてきた器に注ぎ込んでいく。



 すべてが高まっていく。

 手に入れた全てを投入する。

 全身全霊で没頭する。


 センは、一度、図虚空から口を離す。

 闘う意志をなくしたわけではない。

 むしろ、逆。


 可能性の先を見つめる。

 今を置き去りにする覚悟と共に。

 バラバラになった命のカケラをつなぎあわせて、




「「「――ヒーロー見参――」」」




 膨れ上がった三つの命、

 そのまま流星のように、

 深く遠く、堕ちていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る