5話 ツミカさんは揺るがない。

 5話 ツミカさんは揺るがない。


(……この茶番に緊張感をもって挑むのは、さすがに、無理があると思うが……)


 などとつぶやいていると、

 テロリストの中の一人、

 腕に赤い布を巻いているリーダー役の男が、


「紅院美麗、薬宮トコ、黒木愛美、茶柱罪華……以上の四名は、私と一緒にきてもらう」


 そう言いながら、

 K5の面々を教室の外へと連れて行こうとする。


 紅院、トコ、黒木の三名は、

 軽くダルそうな顔で、しかし、ある程度マジメに対応しようとしているが、

 茶柱だけは、



「ふざけるにゃ! ツミカさんはテロには屈しないにゃ!」



 などと言いながら、『鬱陶しい抵抗』をはじめた。


 無駄にウザすぎるその抵抗を受けて、

 テロリーダーは、


「えぇ……」


 と、普通に困惑した声を漏らし、


「いや、あの……」


 勘弁してほしそうな顔で何か言おうとするのを、

 茶柱は、全力で制していく。


「ツミカさんは、総理大臣の娘にゃ! この国の心臓を担う男の娘として、決して――」


 言い切る前に、

 パカァンと、後頭部をたたかれて、

 茶柱は、


「痛いにゃぁ! 何するにゃ!」


 彼女をしばいたのは挙茂だった。


 気合いの入った教師アゲセンは、

 『総理の娘ツミカさん』相手にも、

 一切ひるまず、普通にキレた顔で、


「ワケの分からん抵抗をしていないで、さっさと、連れていかれろ!」


「実戦を想定すると言ったのは、そっちだにゃ! ツミカさんは、テロリストの言うことを黙って聞いたりしないにゃ! そんなことは、ツミカさんの正義感が断じて許さない! たとえ、ここにいる全員が射殺されても、ツミカさんは、絶対に、テロリストには屈しない!」


 と、そこで、トコが、


「そんな迷惑極まりない正義感は、ドブにでも捨ててまえ! 頼むからぁ!」


 と叫びながら、茶柱の背中にケリを入れる。


「というか、正義感の履(は)き違え方がエグいな! ジブン、どんだけアホやねん!」


「ツミカさんはアホじゃないにゃ! その気になれば、トコてぃんより賢いにゃ!」


「そこに関しては否定しきれんけど、今は、ええねん、そんなこと! とにかく黙っとけ!」


「イヤだにゃ! ツミカさんは最後まで戦うにゃ! ツミカさんには、己が信念を貫けるだけの力と覚悟があるにゃ! ツミカさんの右手が真っ赤に燃える! 『汚物は消毒だ』と、轟き叫ぶ!」


「……手ぇだけやなく、全身まるごと燃えてくれへんかな……」


 などと、ごちゃごちゃやりあっている彼女たちを横目に、

 蓮手が、センに、


「……おい、閃。止めてこいよ」


「はぁ? なんで俺が?」


「彼氏なんだろ?」


「……仮に、俺があいつの彼氏だったとしても、あいつは、男の言うことをおとなしく聞くような女じゃないから、とめにいっても意味はない」


「いや、お前ならいける。お前ほどの彼氏力があれば、茶柱も黙って言うことを聞くはずだ」


「お前、俺のナニ知ってんねん」


「俺は、お前以上にお前を知っている。お前ならいけると、ガイアが俺にささやく。お前に不可能はない。お前なら、神の王にだってなれる」

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