100話 プリティーグッド。


 100話 プリティーグッド。


「……ゴミニートと厨二迷宮の世界で、50年近くかけて、こんなにも強くなった俺と、普通に、トントンを張りやがって……しんどすぎるだろ、この状況……俺が、必死になって積み重ねてきた数字に、オートで追いついてくるんじゃねぇ、カスが……」


 センのその言葉に対し、

 倒れこんでいるウムルは、


「今回も負けたか……まあ、正直勝てるとは思っていないから、別にいいが」


 などと、つぶやいてから、


「……『次周の私』は……さらに強くなる……もっと、もっと苦しめてやるぞ……覚悟しておけ、センエース……」


 と、最後にそう言い捨てると、

 粒子状になって、

 センの奥へと注がれていった。



「……さて、と」



 そう言いながら、

 センは、自身の胸に手をあてて、


「顕現しろ」


 そう命令すると、

 センの胸部が、暗く輝く。

 ズブズブっと、音をたてながら、

 センの心臓から、黒い多面体が出現。


 センは、その黒い多面体を握りしめながら、


「黒く輝け、トラペゾヘドロン」


 事務的に、そう宣言すると、

 黒い多面体が、

 ブルブルと震えながら、

 より強い黒色で発光しはじめた。


 輝きは、いつしか粒子となって、

 パラパラと世界に舞い散って、

 一つのシルエットをつくりだす。


 次第に、

 シルエットは、影となり、

 影は、


 黒肌の美青年となった。



「ふぅ……ひさしぶりだね、センエース」



 黒肌の美青年は、ニィとイタズラな笑顔を浮かべてそう言った。


「まあ、そうだな。約50年ぶりだ。元気にしていたか?」


「元気と言えば元気だけど、体調が、少しだけ優れないところもなくはないね。雨の日は、ちょっと頭痛がするし、低血圧で、朝が少しツラいし、ちょっとだけ不眠症でもある。ベッドに入ってから、眠るまでに4時間ぐらいは必要な感じだ。あと、軽く便秘気味で、食欲も、ちょっと少な目かな。ちなみに、血圧は上が104で、下が44。血中酸素濃度も、なかなか100%にならなくてね。いつも94%前後の間をさまよっている感じだ。頸椎の4番目がズレているのも気になるし、腰と肩が凝っているのも問題と言えば問題だけど、まあ、我慢できなくは――」


「もういい、もういい」


 ウンザリ顔で、そう言ってから、


「ハウアーユーに対しては、プリティーグッドの一言で返しておけばいいんだよ。俺は医療従事者じゃねぇから、お前のガチ体調に興味はねぇ」


 軽く、挨拶をかわしあってから、

 センは、


「そんなことより、お前に頼みがある」


「OK。叶えたよ」


「……望みをいうよりも早い神速のクエスト達成、心底痛み入るが……確認のために、一応、聞いておきたい。お前は、俺の、どんな願いを叶えてくれたんだ?」


「君の家のリビングに飾ってある時計の電池、切れかけていたから、コンビニで買った新品に変えておいたよ。面倒事を処理してもらえてよかったね。それじゃあ、僕はいくよ。また、何かあったら、言ってくれ。寿命の半分で請け負うよ」


「待たんかい」


 呆れ口調で、ニャルの帰宅を阻止するセン。


「なんだい? トイレの電球は、まだ切れていないから大丈夫だよ?」

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