19話 才藤は戦わない。


 19話 才藤は戦わない。


(さて、どうするべきか……これが、もし本当に『こいつらのためのチュートリアル』なんだとしたら、あのゴーレムを俺がワンパンで沈めるのは、条件的にどうなんだ? 俺がはしゃいで無双することは……はたして、正解か?)


 その気になれば楽勝でどうにかできる状況なので、

 センは、どこまでも冷静に俯瞰で現状を見ている。


(これまで、俺は、運よく、経験値を無限に稼げていたが、それは、当たり前のことじゃない。普通に考えれば、『経験値』ってのは有限のリソース。そして、俺は、条件さえ満たしてしまえば、この世界から、さよならする身。ここで、下手に手を出したことで、こいつらの成長の機会を奪い、結果として、こいつらが詰む……みたいな状況になったら、責任とれん……)


 この世界にとって『自分が異物である』という自覚はある。

 だからこその躊躇、迷い。


(ここで、ゴーレムを瞬殺することはたやすい。正直、デコピンで殺せる。けど、それは、倫理的にも条件的にも、正解の行動じゃない気がする。んー……)


 センは、色々と悩んだ結果、


(んー……そうだな……もし、この後、『こいつらだけでは、どうしようもない状況』になったら、手を貸す……みたいな流れでいいか……それが正解の選択肢かどうかは知らんけど、とりあえず、それで様子見していこうか)


 そう決断し、

 センは、女子二人の闘いを見守ることにした。


 と、そこで、センは、自分の隣で、ボーっとしている才藤に、


「才藤。お前は戦わないの?」


 と、たずねてみた。


 すると、才藤は、

 何も考えていなさそうな、

 ボーっとした顔つきのまま、


「……俺に闘う力なんかない。閃、お前の頭にも、たぶん、情報はインストールされただろ? 俺達は村人。生きて帰れますようにと、祈るぐらいしか出来ない」


 そんな風に、センに対して、

 『テキトーな発言』を返している最中も、

 才藤は、頭の中で、


(ここまで見た限りでは、『全て』が、『完璧に現実化』している。となると、やはり、条件を満たせなかった時に、世界が終わる可能性は非常に高いと言わざるをえない)


 冷静にモノを考えようとしているが、手の平はビチャビチャになっている。

 元々狂っている自律神経が、さらにしっちゃかめっちゃかになる。


(落ち着け。終末を回避する手はある。冷静になれ。あーもう、心臓、うるさい、騒ぐな)


 真理の迷宮におけるクリア条件は、

 極めてシンプルでRPG的。


(大丈夫だ。問題ない。……ラスボスさえ倒せば、世界は終わらない)


 それは、ほぼ『すべてのRPGに通じるルール』。

 だが、


(しかし、キツいなぁ……ラスボスの『Z』、超強く設定しちゃったんだよなぁ)


 苦悶に顔が歪む。


 一定時期に達すると、

 迷宮から這い出てきて、

 世界を完璧に破壊し尽くす超兵器『Z』。


 その強さはハンパではない。


 苦悶の表情で悩んでいる才藤に、

 センが、


「なんか、すごい顔になっているが、大丈夫か?」


「大丈夫じゃねぇよ。この状況で大丈夫なわけがねぇだろ」

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