18話 才能の定義。


 18話 才能の定義。


「ぶふっ!!」


 くの字に曲がるロイガーの体。


「なっ……はぁ……っ?」


 完璧なカウンターをくらったことに対する疑問が止まらないロイガー。

 そんなロイガーに、トウシは、たんたんと、


「まったく同じ通りに再現させてもらった。……けど……なんか、ギクシャクしとるな……完璧に同じにしすぎた……おどれの体に適応した動きをそのままコピーしてもうたら、そら、かみあわんわな……ワシの体に適応させんと……」


 そう言いながら、

 トウシは、続けて、

 先ほどとは違う角度で、

 ロイガーの腹部にフックを叩き込む。


「ぐふぅ!」


「うん。こっちの方が、しなやかで、威力出る。実直にマネするんは大事やけど、完全コピーはあかんな」


「……な、なぜ……なぜ、そんなにも……しなやかに動ける……」


 当たり前の疑問に支配されるロイガー。


「……『武』を『高み』に届かせるためには……長久の時を積んだ研磨が必須……一度経験しただけでマネできるわけが……」


「当たり前の話やな。普通にやったら、当然、とんでもない時間を必要とするやろう。けど、ワシには、イスの遺産という翼があるから、そういう面倒事をすっ飛ばしていける」


「……」


「ちなみに、誤解されたくないからいうとくけど、ワシ自身に武の才能は、あんまりない。いや、まあ、ある意味で、なくもないやろうけど……でも、実際のところ、破格の頭脳という補助がない状態やったら、お前と同じ領域にいくまで、数百年から数千年の時を必要とするやろう」


 『総合的』な意味で言えば、トウシは、武においても天才である。

 しかし、自分のステータスに厳しいトウシは、

 自分には『武』に関する直通の才能はないと断じる。


「実際には『永き』を積む必要がある世界。けど、現状やと、数秒でたどりつける。なぜなら、ワシ自身が強くなる必要なんかないから。せっかく、高性能のAIを創ったんやから、そいつに全部学習させたる。学習し、推測し、応用できるAI。あとは、そのAIの理想通りの動きを体現できるスーツがあればオールオッケー」


 泥臭く強くなる必要などない。

 トウシは、いつだって、最先端の最短距離を突き進む。


「世界を演算し尽くして、エスカレーター式に武の高みへと駆け上がる。けど、卑怯とは言わさへん。これは、ワシが構築した解析プログラムがあって、初めてなせる裏技。海の泳ぎ方で空を翔ける。それがワシの闘い方。そんだけの話」


 そう言うと、トウシは、

 もう一度、学習したフックを、ロイガーに叩き込もうとする。

 先ほどよりも、さらに、最適化&洗練された拳。


 だが、それしかないと分かっていれば、

 対処は十分に可能。


「っ……ちっ……同じ角度の攻撃を何度も続けて届くと思うなぁ!」


 そう叫びながら、

 体軸を低くして。

 体をグルンと回転させる。


「うぉっと!」


 綺麗な足払いでスッ転ばされたトウシ。

 そんな彼の顔面に、


「おらぁあああっっ!!」


 ロイガーは、

 握りしめた拳を、思いっきり叩き込んだ。


「ぶへぇえええええええええっっ!!」


 凶悪な衝撃。

 盛大に吐血する。


「うっ……んぶほっ……うぇへ……」


「偉そうにほざきやがって……小賢しい貴様には、死を学習する機会をプレゼントしてやる。存分に味わえ」

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