6話 凡人たちの雑談。


 6話 凡人たちの雑談。


「あまり、ジロジロ見ていると、『親衛隊』の連中に、脊髄を持っていかれるぞ」


 と、声をかけてきたのは、

 モブ感が強い男子高校生『蓮手(はすて)』。

 中肉中背で、黒髪。

 際立った特徴が一ミリもない、

 『平々凡々』という概念を具現化したような男。


 そんな蓮手の発言を受けて、

 センは、ポリポリと頬をかきつつ、


「あいつらの親衛隊って、ちょっと目線を送っただけで、人の中枢を持っていくほどの過激派なのか……ドン引きが止まらねぇな」


 呆れ交じりにタメ息をついたものの、

 どこかで、同時に、

 『まあ、それも仕方ないか』などとも思う。


 彼女たちほどの美少女ともなれば、

 当然、寄ってくる異性は腐るほどいるわけで、

 しかし、家柄の違いがありすぎるため、

 普通に『お近づきになること』など、

 当然できるわけがない。


 結果『膨らんだ好意』を『影から守るという形』で『体現しよう』と、

 『奇妙な心血の注ぎ方』をする連中が群れをなした。


 三学年合わせて1万人を超えるこの学校において、

 その中の、およそ10%である1000人が、

 彼女たちの親衛隊として、日夜、正式に活動をしている。


「俺たちは『偶然、同じクラスになった』というだけで、親衛隊の連中から、羨望と嫉妬の眼差しを受けているんだ。もし、『K5を狙っている』なんて、あらぬ誤解を受けたら、やつらに、何をされるか、マジで分かったもんじゃねぇ。言動には気をつけた方がいい」


「あいつらを狙う男なんざ、実際のところ、いるわけがねぇんだがな。分け隔てなく『男子生徒全員』に対し、全身全霊で『話しかけてくるなオーラ』を放出しているような、ヤバさが天元突破しているヒステリックモンスターズと、仲良くしたがる変態男子は、そうそういねぇ」


 そこで、センは、初めて、彼女たちと出会った時のことを思い出す。


「入学式の日に、たまたま目線が噛み合ったというだけで、強烈にガンを飛ばされた、あの瞬間から、俺の中で、あいつらは大きなトラウマだ」


 本当に、偶然、目があっただけなのに、

 『キッ』と、ものすごい勢いで睨まれて、

 普通に委縮してしまった。


 あの日のことを、センは、今でも鮮明に思い出せる。


 ――そんなセンを横目に、

 蓮手は、『ははっ』と軽く笑ってから、


「まあ、でも、そのぐらい徹底しておかないと、アホな男が無限に寄ってくるだろうからなぁ。あいつらの顔面偏差値は異常だよ。普通に『美形』ってだけなら、人生がイージーモードになるだけだが、彼女たちぐらい突き抜けてしまうと、色々と、生きづらいと思うぜ」


「……」


「少なくとも、俺はヤダね。美形には生まれ変わりたいが、超美形には生まれ変わりたくない。モテすぎるのはしんどい。不特定多数のストーカーに粘着されてビクビク生きるなんてゴメンだね。普通に、いい感じのラインで、軽くモテるぐらいがちょうどいい。君もそう思わないかね、閃さん」


「……まあ、別に異論はないが」


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