85話 規格外の戦闘力。


 85話 規格外の戦闘力。


 センの攻撃に対し、

 『主』の受け流しは完璧だった。

 常人であれば、こじあけることは不可能。


 けれど、

 そんな『主』の受けに対し、

 センは、ニィと黒く笑って、



「ちょっと甘いねぇ。それじゃあ、受け切れてねぇよ」



 ジャブで釣ってから、緩急をつけて、神速の踏み込みを決めるセン。


 ふところに飛び込んでからは独壇場。

 とんでもない手数で、えげつない火力を叩き込んでいく。

 視野をあえて狭く、周辺だけに集中。

 深く、深く、深く、潜っていく。


 そんな息苦しい攻防を強制された『主』は、

 奥歯をかみしめながら、必死になって。


「……っ……」


 応戦するものの、センの『あまりにも過剰な手数』に、たまらず、


「――『瞬霊ランク500』っっ!!」


 自分が創った空間と調和する魔法で距離をとる。

 瞬間移動とは少し違うが、結果は同じようなもの。


 離れた場所で、息をついてから、再度、丁寧に構えなおそうとする。

 ――が、その動きを見たセンは、


(ちょいとレベルの低いムーブだな……)


 心の中でそんなことをつぶやきつつ、

 食い気味に距離をつめる。


 あえて、先ほどとは、違う角度からアプローチするセン。

 『主』の『対応力』を査定しようとしたのだが、

 しかし、途中でバカらしくなってやめた。




「……あんた、存在値は大層なもんだが、しかし、戦闘力は、そうでもねぇな」




 『戦闘力が低い』とは言えないのだが、

 しかし、目覚ましいものがあるかと言えばそうでもない。


「……」


「なんというか……薄い。薄っぺらいとまでは言わないが、中身は、まあまあスカスカだな」


「――ええ、あなたの言う通り。私は、さほど強くはない。『大事な部分』は、すべて、あの子に注いだから」


 『主』は、たんたんと、


「私が最強である必要性は皆無。主役は私ではないから当然。この世界の主人公は、私ではなく、あの子。あの子だけが、命の希望。あの子を完全なる王へと育てる。それだけが私の全部!」


 そう叫びながら、

 『主』は、センに向かって特攻を決め込む。


 命を燃やして、

 センを排除しようとする。


「中身スカスカだが、しかし、覚悟の質量だけは目を見張るものがあるな」


 そう言いながら、センは、


「閃拳」


 彼女の腹部に、一発をぶちこんでいく。


「ぐふっ……」


 重たい一撃をもらって、膝から崩れ落ちる彼女。

 そんな彼女に、センは、


「……『俺には勝てない』というだけで、あんたの『数値』は、なかなかエグい。わざわざ天使軍なんか用意しなくても、異世界人の侵略をどうにかするぐらい、あんた一人でどうにか出来そうだけどな」


「……今、こうして……できていない……」


「俺は例外さ。というか、別に、この世界を侵略しようとはしてねぇ。ただ単純に『色々と知りたかった』ってだけ」


「……」


「この世界を侵略しにきたカスを叩き潰したことがあるんだが……あの程度のカス共が相手なら、あんた一人で殲滅できるだろう。どうして、わざわざ、必死こいて、天使軍や『あの子とやら』を育成しているんだ?」



「……私の力だけでは、絶対に勝てない『領域外の混沌』がいるから……」

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