55話 身内にはクソ甘いが、『自分』には厳しすぎるメンヘラブラック社長。


 55話 身内にはクソ甘いが、『自分』には厳しすぎるメンヘラブラック社長。


(お前に、救いを求める権利はないんだよ、ガタノトーア。救いを求めていいのは、弱い命だけだ。お前は強い。だから、誰も助けてはくれない。お前は、孤独に戦いぬくしかない)


(さ、最悪すぎる……こんなことなら、ハンパな強さなんて持って生まれてくるんじゃなかった……)


(真理だな。下手に『ハンパな強さ』を持って生まれるよりも、弱い命で生まれた方が、生きていくのは遥かに楽だ)


 そう言ってから、

 センは、真摯なトーンで、


(けど、弱い命で生まれたら、誰も救えねぇ)


(……)


(――『平和的に対話で解決』なんて、そんなもんが成立する世界なんざ、この世のどこにもねぇ。そんな『当たり前の現実』から目を背けて、中身のない綺麗事だけを並べても、からっぽの虚無感に苛まれるだけで、あとには何も残らねぇ)


 センは、リアリストである。

 『男のロマン』を追い求めはするが、

 『反吐がでるメルヘン』にすがったりはしない。


 『暴力』は『全て』ではない。

 『暴力』が『尊いもの』だとも思わない。

 『暴力』以上に『価値のあるもの』は無数にある。

 しかし、



 『暴力』が『全て』を『奪っていく』ということを、

 センは、理解している。



 抗える力がなければ、大事なものを奪われる。

 それが、絶対的な世の現実。


 誰も反論できない、絶対のリアル。


(俺は何も奪われたくない。だから、徹底的に強さを追い求める。お前は、そんな俺の眷属だ。ハンパは許されねぇ。全力で運命に抗え。命の全てを沸騰させろ。やり方が分からないなら、死ぬ気で、その方法を学べ。俺の眷属になった以上、てめぇの未来も、ナイトメア・マストダイ確定だ。今のうちに『果て無き絶望』に慣れておけ。これから、お前は、死ぬより辛い現実と向きあい続ける)


(……)


 黙ってセンの話を聞いていたガタノトーアは、

 ふとした瞬間に、


(その先に……何がある? 死ぬより辛い現実を超えた先に……いったい、何が……)


 当然の疑問。

 茨の道を進んだ先に、何が待っているのか。

 なんのために、このトゲだらけの道を、傷だらけになって進むのか。


 その答えを求めたガタノトーアに対し、

 センは、鼻で笑って、




(知るか。自分の目で確かめろ)




 冷たく突き放す。

 答えを出し渋ったのではない。

 答えなど、センも持ってはいない。

 それだけの話。


 ――ソレが、なんとなくわかったから、

 ガタノトーアは、


「……はぁ……」


 心底しんどそうにタメ息をついて、


(……なんて厄介なヤツに捕まってしまったんだ……最悪極まる……逃げたい……こんなヤツの側にいたら、擦り減って、擦り減って、擦り減った上で、死んでしまう……)


 『センの眷属になる』という事の鬱陶しさを、

 ようやく正式に理解したガタノトーア。


 その絶望と比べれば、

 目の前の小娘とのハンデ戦くらい、

 アクビが出るほどぬるいと感じた。


 ――ガタノトーアは、クティーラとの死闘の中で、


「同情するぜ、クティーラ」


 心からの言葉を投げかけた。

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