3話 再戦。


 3話 再戦。


 ――二日目の夜、

 ウムルとの闘いで、センは、


(……今の俺なら……おそらく殺せる……俺は強くなった……)


 ノーダメージで、ウムルを殺すことを決意した。


 これまで、何度も地獄を見てきた結果、

 図虚空が、すさまじい勢いで成長していた。


 図虚空だけではなく、

 セン自身も、体術が飛躍的に成長している。


 何度も、何度も、GOOを殺し続けた結果、

 神経のすべてが『命を奪う事』に適応してきた。


(……ほかの選択肢は全て潰した……残るは……もう、ここだけ……)






『――【ウムル=ラト】のノーダメージ撃破を確認。【壊れたウムル=ラト】を召喚します』






 ノーダメージでフィニッシュした直後のこと。

 奇妙な音声が、センの脳内に響いた。


 奇怪なジオメトリが空中に描かれて、

 その向こうから、


「……プハァ」


 禍々しいオーラに包まれたウムル=ラトが出現した。



「クシュー、コホー」



 完全に飛んでいる目。

 異様な雰囲気。

 明らかに壊れている。



「ギャガヤガヤガァアアア!!」



 無意味に叫び散らしながら、


「ビャァアアッ!!」


 センに向かってとびかかってきたウムル。


 センは、その初手に対し、


「見える……見えるぞぉおお!」


 はじめて戦った時は、

 手も足も出なかったが、

 成長したセンの目には、

 ウムルの姿がハッキリと見えた。


「俺は……強くなった!」


 そう叫びながら、

 センは、カウンターで、ウムルの心臓に図虚空を突き立てる。


「伊達に地獄は見てねぇぜっ!!」


 と、無意識の内にテンプレをはさみながら、

 センは、軽やかに、ウムルをメッタ刺しにしていく。


 時折、反撃をくらったりもするが、

 しかし、耐久面も相当に上昇しているので、

 数発程度では、よろけることすらなかった。


 センは、これまでの鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように、

 ウムルとの『高次戦闘』に没頭した。


 もはや、『他のGOO』との戦闘は、

 クソたるい作業ゲーでしかないため、

 『戦闘の高揚感』や『勝利の達成感』というものは得られなかった。


 別に、ソレらを強く求めているわけではない。

 しかし、やはり、

 『自分が強くなったこと』を実感でき、

 その上、

 『美しい戦闘が出来ている』という満足感も得られる現状に対し、

 一定以上の『楽しさ』を感じてしまう。


 普通に不謹慎(ふきんしん)だと思いながらも、

 センは、


「いいぞ、ウムル! さすがに、強いぞ、ウムル! かっこいいぞ、ウムル!」



 戦闘ハイになりながら、

 艶(あで)やかに舞う閃光。


 二時間ほど続いた戦闘は、



「じゃあな、ウムル! 久々に、ちょっとだけ楽しかったぜ!」



 センの『一閃』によって、


「ギッ……ギャァ……ガァア……」


 ウムルが一刀両断されることで幕を閉じた。



 ――地に落ちたウムルの死体を見つめながら、

 センは、心の中で、


(さぁて……どうなる? 何か、新しいイベントは起こるか? もし、何も起こらなかったら……うん、今は、そっちの方がイヤだな……『だいぶメンドくせぇ流れ』でもいいから、とにかく、何か、変化よ、起こってくれ)


 などと思っていると、

 ウムルの死体が、

 ヴヴヴッ……

 と音をたてて発光しはじめた。


「よし、いいぞ。なんでもいいから、起これ、イベント。この閉塞状態を打破できる『何か』になってくれ」

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