26話 全人類に対する愛着。


 26話 全人類に対する愛着。


 センは、カメラモードから、電話モードに切り替えて、

 黒木に電話をかけた。


 数回のコールのあと、


「……はい……誰ですか?」


 1001周目の時とは違い、普通に電話に出た黒木は、

 1000周目以前のループ時と同様、警戒して、自分の名前は名乗らない。


 美少女のファイアウォールは、いつだって、強烈に分厚い。


 そんな黒木愛美に、センは、


「お前が小三の時に書いていた自作小説の主人公の名前は……ソンキー・ウルギ・アース……間違いないな?」


 一字一句変わらない文言をぶつけていく。

 口が勝手に憶えていた。

 思い出す必要すらなく、言葉が勝手に文句をなぞっていく。


 ――その結果、当然、


「っっ?! な……なんで……」


 心底驚いた声を出す黒木。


「お前は、その自作小説を、茶柱祐樹にしか読ませていない。そして、祐樹は、『作品について誰にも言わないでほしい』というお前の願いを無碍にするようなヤツではない。よって、言うまでもないが、あいつから聞いたわけじゃない」


 その後、センは、黒木に対し、

 正式かつ適切なお願いを申し出て、

 間違いない約束を取り付けると、


「じゃあ、俺は少し用があるから、いったん、切るぞ。今後のこと、マジでよろしく」


 そう言ってから、強引に電話を切ると、

 そのまま、センは着替えを済ませて、家を飛び出した。




 ★




 滅亡していない世界を見渡しながら、

 テキトーに、ぶらぶらと繁華街をブラつくセン。


 気づけば、2時間ほど、意味なく街の中を練り歩いていた。


(……意味のない感傷だ……)


 自分自身の無意味な行動に対し軽く呆れを覚えつつも、

 しかし、この無駄な散策をやめることができずにいる。


(人類の滅亡は、何度も経験していて、相当に慣れているはずだが……前回の滅亡だけは、状況が異なるから、かなり堪えている……繊細だな、俺は……バカか)


 自分自身の無様さに対し怒りにも似た感情が湧き出てくるが、

 しかし、それでも、センは、街をぶらぶらと歩き続ける。


 こんな無駄なことをしているヒマがあるなら、

 ほんの少しでも、未来のためになる努力を積むべきなのだが、

 しかし、センの足は、『人々が行きかう繁華街』に留まり続ける。


 ――前回の『1001周目』で、

 センは、正式に『人類の王』となった。


 責任感の強いセンは、その職務を全うしようと全力でもがき続けた。

 その結果、センは、全人類に対して強い『愛着』を持つようになった。


 1001周目までのセンは、なんだかんだ言いつつ、

 結局のところは、K5を守ることだけを念頭においていた。


 『彼女たちだけ守りたい』と思っていたわけではないが、

 優先順位という点で見た場合、明らかな差があった。


 しかし、現在だと、その差が随分と埋まってきている。

 もちろん、K5の方が優先順位は上なのだが、

 現状だと『どちらも絶対に捨てられない』と断言できる程度には、

 全人類に対して強い愛着を抱いている。


 例えるなら、やはり、親が抱く子供に対する感情。

 いや、まだそこまでには達していないかもしれない。

 ただ、『飼い猫を外敵から守護したい』という庇護欲には匹敵している。


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