97話 修正パッチ。


 97話 修正パッチ。


 ――結局のところ、ほんのわずかな時間だった。

 数字にすると、1分を切る神速の死闘。

 どちらかが弱かったわけではない。

 愚鈍な泥試合にはならなかっただけ。

 美しく幕を下ろした。

 それだけの話


「……こんなにも、アッサリと……私を超越してしまうとは……風雅だな」


「強かったよ、虚空の王よ。あんたは間違いなく最強の神だった」


「……くく……」


「なにがおかしい?」


「いや……そのセリフは、まだとっておいた方がいいと思ってな」


「……?」


「しょせん、私は分体に過ぎない。真の本体と比べればゴミ。そう簡単に、私の本体に拝謁できると思うな。本当の私の力を知った時、はじめて、そのセリフを口にしろ」


「……いや、お前が本体だって言ってたじゃねぇか」


「あれは嘘だ」


「お前、ウソばっかりだな」


 ため息を一つはさんでから、


「あのさぁ……マジで、真の本体とやらは、お前を大幅に超えているのか? 決着がつくまでの時間こそ短かったが、実際のところ、けっこう、ギリギリの殺し合いだった。これ以上、強いバージョンに出てこられると、普通に困るんだが……」


「もっと強くなれ、ヒーロー。その先にしか……『答え』は存在しない……」


 最後にそう言い捨てると、

 ヨグの分体は、

 スゥっと、世界に溶けていった。


 その様子を最後まで見届けてから、

 センは、

 天を仰いで、


「……お前らも引き継げたら……色々と楽なんだけど……たぶんできない……だろ?」


 そう尋ねると、

 まず、トウシが、


「ワシらは今回限りの特例。これからワシは、コスモゾーンを経由して、オリジナルの器になる」


 続けて、ソンキーが、


「俺は、シャドーに近いソウルレリーフに過ぎない。戦闘経験は、オリジナルに注がれるだろうが、それ以上でもそれ以下でもない」


「それでいいのか?」


「いいも悪いもない。今の俺はそういう概念。オリジナルのソンキー・ウルギ・アースが強くなるための糧。これは、オリジナルの俺が望んだこと。つまりは、俺自身が背負った業」


「……お前は本当に、脳筋だな……」


 そうつぶやいてから、


「じゃあな、鬱陶しいバカども。オリジナルによろしく」


 ふところから、銀の鍵を取り出すと、



「――俺は、まだ、頑張れる」



 世界に対する滅私奉公宣言をしてから、

 過去に飛んだ。




 ★




 ――初日の朝に戻ったセンは、


「……なにもかも全部、問題なく、引き継がれているな……ようし」


 変に歪んだ部分がないか、

 一通り確かめてから、

 スマホを取り出して、


「……トウシの経験も、俺の中に根付いている……知識も理解もある……今の俺なら、F‐クリエイションを使える!」


 そう意気込みながら、

 F‐クリエイションを起動するセン。


「……あ、ちくしょう……『トウシがいじった部分』に修正パッチが当てられていやがる……クソが……できれば、経験値取得倍率はそのままにしてほしかった……まあ、いい。俺にも、トウシの器が刻まれている。同じ人間であるトウシにできたこと。頑張れば、俺にもできるさ。俺は、やればできる子だ」

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