77話 運命論のカフカ。

 77話 運命論のカフカ。


「そのレアパーツたちを、無駄に惜しんだりせず、すべて、内野に使っておけば、GOO大戦での損失を抑えられていたんじゃねぇのか?」


 センの純粋無垢な疑問に対し、

 ゾーヤが、


「それは、あくまでも結果論ね。GOO大戦が起こらず、内野よりも優れた指導者が誕生する未来もあり得た」


 その言葉を受けて、

 センは、ドンと胸を張り、


「その未来がきたんだ。俺は指導者たりえないが、しかし、『バケモノどもを殺す剣』としては人類最優秀だという自負がある。今後、GOOは俺が皆殺しにしてやる」


 自信ではなく確信でもって、

 センは、堂々と、


「ハッキリ言うが、俺以上の剣が現れることはない。断言する。というわけで、さっさと、レアパーツをくわせろ」


 その要求に対し、

 ナバイアが、


「携帯ドラゴンすら使えない一般人が、何を偉そうに――」


「携帯ドラゴンすら使えない一般人なのに、紅院たちが苦労するほどのGOOを殺してみせたんだ。どう考えても、そっちの方がすげぇだろ」


「……聞けば聞くほど、非常に怪しい話だと言わざるをえない。あえて、『ありえない』という言い方をしてもいいかもしれない」


 そこで、ナバイアは、ギンッと視線を強くして、


「ハッキリと言っておこうか。私は、君に関するウワサの大半がデマだと思っている。私が、今日、ここに来たのは、『どういうつもり』で、そんな大それた嘘をついたのか、問いただすためだ」


「俺が『どういうつもり』なのか、そんなに知りたいなら教えてやるから、耳をかっぽじれ」


 そう前を置いてから、

 センは、惜しみなく、赤裸々に、



 ――『これから起こること』を丁寧に語っていった。



 細かいところは省いたものの、

 幻爆の剣翼が舞って、

 全人類の首が吹っ飛ぶところは、

 シッカリと説明した。


 その結果、

 ナバイアは、



「まるで、終末論だな。あるいは、運命論かな? ともかく、よけいに胡散臭くなった」



 鼻で笑って、


「一つ聞きたいのだが、なぜ、その終末の日に、君だけが生き残る? 君だけが特別である理由はなんだ? まさか、君が『メシアだから』とでもいうつもりかな?」


「神の子を名乗る気はない」


 と、断言した上で、


「俺が異常であることの理由なんか知らん」


 と、言い切るセンに、

 ナバイアは、嘲笑するように、


「知らない? そいつはまた、ずいぶんと、お粗末な話だ」


 やれやれと首を横に振って、


「では、質問を変えよう。君は、時間を跳躍できるという話だが、ここからの株価の値動きについて、予言をしてくれないか? それがピタリと当たったら、少しは信じてあげようじゃないか」


「……」


 そこで、センは、ポリポリと頭をかいて、

 面倒くさそうなため息をついてから、


「……てめぇと遊んでいるヒマはねぇんだよ……」


 低い声で、威嚇するように、


「次、ナメた口をきいたら、その首、斬り落とすぞ」


 センの低音ボイスに対し、

 ナバイアは、


「はっ」


 と、鼻で笑い、


「戦場で生きてきた私に、ガキの脅しが通じるとでも? まともな殺気の一つも込められていない威迫に価値などない」


 ――ナバイアは、『恐怖』に対して鈍感なところがある。

 それは、性格の問題ではなく、脳の構造の問題。


 一言で言ってしまえば『疾患』の一種。

 情動を司る大脳辺縁系の一部分に、特発性の歪みが生じており、

 『共感性』や『純粋な恐怖』の感情が薄れている。


 戦場帰りによく見られるPTSDの類ではなく、

 生まれつき『感情の一部』に欠損が見られた。


 ――ゆえに、ナバイアは、センの脅しに屈しない。

 より正確に言うのであれば、

 『屈しない』のではなく、

 『センの胆力』が『理解できないだけ』なのだが。


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