47話 壁は無限にある。


 47話 壁は無限にある。


「主人公? 貴様が? 愚かしいことを。とんだ勘違い。この世界の主人公は私だ」


「……はっ……お前がそう思うんならそうなんだろう。お前の中ではな」


 とつぶやいてから、

 センは、


「ブーメランだなぁ」


 と、自虐を口にしつつ、自分自身を鼻で笑って、



「壁を超えても……また、すぐに次の壁が、目の前に現れる……」



 タメ息と一緒に、

 言葉を吐き捨てるセン。


「いつまで続ければいい……この『壁を壊し続ける』という重労働を……いったい、いつまで……」


 『次の壁』を前にして、

 センは、終わらない苦悩と正面から向き合う。


 壁を壊し続けて、

 壁の壊し方に慣れ親しんで、

 けど、いくら壊しても、

 次から次へと、しんどい壁が立ちふさがってきて、


「いつまでだ……いつまで、あがき続ければいい? いつ、楽になれる? もう、足が痛ぇよ……手も腕も頭も目も腰も……全部、痛いんだ……苦しんだよ……ずっと、ずっと、ずっと……」


 泣き言があふれる。

 センの中の痛みが浮き彫りになる。


 これまで、ずっと、絶望を乗り越えてきたが、

 それは『絶望を乗り越えられる特殊技能』をもっているからではなく、

 単純に、『誰よりも歯を食いしばって頑張った』から。


 ただそれだけの話。

 『それだけの話でしかない』から、

 実のところは、いつだって不安定で不明瞭。


 虚勢で現実を偽って、

 『俺はまだ頑張れる』と嘘をつき続けた。


 嘘をついて、嘘をついて、嘘をついて、

 そうやって、必死に、

 己を含めた世界の全部をだましながら、

 どうにか、こうにか、たどり着いた場所は、

 ――『それまでと何も変わらない地獄』だった。



「マイノグーラ……仮に、あんたを超えても、また次の地獄を処理する作業にうつるだけだ……もっと大きな壁を前にして、また苦しむだけだ……仮に、そこを超えても、また……そうやって、しんどい想いを積み重ねた先に待っているのは……きっと、より大きくて、よりしんどい壁……それだけ……」



 未来を思って辟易する。

 地獄のような明日を前にして身がすくむ。


 とんでもない無限地獄。

 あまりにも無意味だと、

 いまさらながらに、意識が気づく。


 戦う意味を見失う。

 『とにかく苦しい』という純粋な辛さだけが全身を包み込む。


「なんだ、この人生……なんだ、この地獄……」


 センは、ヒザから崩れ落ちる。


 真・究極超神化プラチナムという、

 新たな覚醒技を手に入れたことで実感したものは、

 『ほぼ確定している』といってもいい、

 『めちゃくちゃしんどい未来』への絶望だけだった。


 ただ、ひたすらに苦しい。

 ただ、ひたすらにしんどい。


「俺は……地獄を処理するだけの道具じゃない……」


 ボソっと、そうつぶやいて、

 うなだれるセン。


 永遠に終わらない地獄が、

 センを押しつぶそうとする。


 そんなセンに、

 マイノグーラは、


「大きな絶望だ……非常に美しい絶望……それだけの絶望を放てる命はそうそういない。積み重ねてきたからこそ輝く儚さ」


 恍惚の表情で、


「美しい……ああ、美しい。だが、まだ、限界ではない……貴様はもっと輝ける……私には分かる……貴様の容量はもっと大きい」


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