72話 ホームシック? 俺が? はぁ?


 72話 ホームシック? 俺が? はぁ?


「その地位にいるのがどんだけ自慢か知らんけど、自己紹介するときは、なるだけ、手短に頼むぜ。気高き俺様の『数秒』を奪うんじゃねぇ。俺の数秒は、てめぇの命1万個よりもはるかに尊いんだからなぁ」


 そんなセンの、

 あまりにも傲慢がすぎる発言に対し、

 ラピッドは、怪訝な表情で、


「……ほんのちょっと見ない間に、ずいぶんと壊れたな……重度のホームシックで心がやられたか?」


「ホームシック? 俺が? なるわけないだろ。俺をナメんなよ。俺に対して、『頭が悪い』とか、『コミュ障だ』とか、『性根が腐っている』とか、そういう系統の悪口を言うのは自由にして構わないが、しかし、ホームシックだの、お人よしだの、そういう、ちょっと何言っているかわかんない暴言で貶めようとするのだけはやめろ」


 謎のこだわりを暴走させてくるセンに対し、

 ラピッドは、


「……気持ちの悪いヤツだ……」


 吐き捨てるようにそう言ってから、


「まあ、とにかく、てめぇは隔離させてもらう」


 そうつぶやきながら、ラピッドは、

 アイテムボックスから取り出した魔カードをビリっとやぶった。


 すると、センの視界がグニャリとゆがむ。

 使われる寸前に『空間魔法がくる』と理解できたが、

 変に抵抗するのもプライドに障(さわ)るので、

 あえて、余裕ヅラを保ち、なすがままにされておく。


 ――だいぶ広めの亜空間に閉じ込められたセン。

 ラピッドと二人だけの世界。


「異世界転移で気が触れたのか……それとも、元からサイコだったのか……」


 などとラピッドは言いながら、

 アイテムボックスから取り出した黒皮のグローブを、

 両手にはめつつ、


「まあ、どんな理由があろうと、もはや関係ないがな……貴様は罪を犯した。善良な一般人に対して無意味な暴行を働き、ゼノリカの天上であるこの僕を愚弄した……」


 全身の魔力とオーラを高めて、


「その莫大な罪に対する正当な罰を執行する」


「てめぇに裁かれるほど、俺は安くねぇ」


 そう言いながら、センは武を構える。


 ピリっと空気がヒリつく。


 ――ラピッド・ヘルファイアは、決してバカではない。

 まだまだ青二才なのは確かだが、優れた武を持つゼノリカの天上であることに間違いない。


 ゆえに気づく。

 目の前にいる犯罪者の実力。

 その過剰さに。


(……な、なんだ……この圧力……いくら、第一アルファ人とはいえ……このバカは、今日、転移してきたばかりのクソガキ……な、なのに、どうして……)


 ビリリと空気のヒリつきが増していく。


 ――センは、


「いくぞ、35位。しょせん、てめぇは35位だということを教えてやる。全世界ナンバーワンのバケモノである俺の力を、とくと見さらせ」


 そう言ってから、足に力を込めた。

 グンとのびやかに、

 センの体は宙を舞った。


 軽やかに空を翔け、

 ラピッドの顔面めがけて拳を突き出していく。


 閃拳ではない。

 ただのグーパン。

 様子見の一手。

 最強の一手でも、最高の一手でもなく、

 ただ、『ラピッドがどうするのか』を見たがっているだけの一手。


 そんなセンの、遥かなる高みからの一手に対し、

 ラピッドは、


「ナメたまねをぉお!」


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