45話 最適な登場速度。


 45話 最適な登場速度。


「今こそが、もっとも幸福な時間! 神になってしまえば、いずれ、慣れてしまう。神になったという喜びは、神で在り続けることで薄れてしまう。神になれるという僥倖を最も喜べるのは、目の前に立った今! 今なんだ!」



 だから、もっと、今を楽しみたい。

 『今』という最高の瞬間を、かみしめていたい。


 大いなる希望の海で、甘く溺れていたい。


 だから、ガタノトーアは、

 紅院たちを瞬殺することなく、

 ゆっくり、じっくり、ねっとりと破壊していく。



「ああ、いい! 貴様らの命はカウントダウン! 私を神へと導く、至高の時間!!」



 変態のような顔で、

 紅院たちをもてあそぶガタノトーア。


 あまりにもウザいその行動に対し、

 紅院たちは、せめて『一発』ぐらいは、おみまいしてやりたいと願い、

 必死になって抵抗してみるが、しかし、わずかも相手にならない。


 ガタノトーアと、紅院たちの間には、

 絶対的な差がある。


「貴様らの脆さが心地いい! のびやかに駆け上がっていくのを感じる! 私は今日! 報われる! 私の全てが祝福されている!!」


 恍惚をひたすらに叫んでから、


「さあ、そろそろ、死のうか! 貴様らは私への供物! 新たな神の誕生を、その命で祝福できる幸運に感謝しながら死ね!!」


 両手に集めた膨大なオーラと魔力。


 膨れ上がっていく。

 紅院たちでは、どうしようもないほどに。

 大きく、深く、優雅に、高貴に、



「――異次元砲――」



 放たれたのは、特大の照射。

 弱い命を飲み込もうとする無慈悲な咆哮。


 その輝きを目の当たりにして、

 紅院の思考はスーパースローになった。


 ――あ、本当に走馬灯ってあるんだ――


 などと、そんなことを思いながら、

 自分の人生を、簡素に振り返っていく。

 名場面がフラッシュバック。


 色々としんどい思いもしたけれど、

 大好きな友人に囲まれて、

 それなりに楽しかった、


 ――なんて、そんなことを思いながら、

 その生涯を終えようとした。



 ――その時、






「――桜華一閃――」






 突如、切り裂かれた時空。

 裂け目から飛び出してきた閃光は、

 手にもっているゴツいナイフを横に薙いで、


 ガタノトーアの異次元砲を、

 真っ二つに切り裂いてみせた。


 その事実に、



「――っっ?!」



 誰よりも驚いたのは、やはり、ガタノトーア。

 言葉なく、ただ、口をパクパクとさせている。

 高い次元にいるからこそ、その場にいる誰よりも高速で理解できた。

 突如出現した閃光の異常さを。


 そんなガタノトーアの反応とは正反対に、

 美少女たちは、ヒーローの登場に歓喜する。

 と同時に、


「ちょっと……遅くないですか?」


 と、軽めの不満を垂れ散らかす。

 『本気で文句をいいたい』というワケでもないのだが、

 しかし、『ヒーローの実力』を考えると、『最適な登場スピード』ではない、

 と、その場にいる全ての美少女が同じ愚痴を心に抱いた。


 そんな彼女たちに、


「うっせぇ! 今、この空間は、異常なほど硬いバリアに守られているんだよ! 俺だから、この速度で突破できたんだ! 俺以外だったら、お前らを助けるどころか、ここにたどり着くことすら不可能だった! ――つぅか、そんなことよりも、なによりも、まずは、『助けていただいて、ありがとうございます、このご恩は忘れません』が最初だろ! なに、助けられておきながら、『そんなことは当然』みたいな顔して、登場速度に文句かましてんだ! シバきまわすぞぉお!」


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