102話 田中トウシでは……


 102話 田中トウシでは……


「あ、信じていないな。言っておくけど、仮に、ヨグのオッサンを1とした場合、ボクの全力は86000ぐらいあるんだからね」


「……そうですか……あざーす、おつかれでーす」


 サラっと、そう流してから、

 センは、クルルーと対峙する。


「……さて、それじゃあ、今から殺すから。無駄な抵抗は、出来るだけ控えてくれるとありがたい」


「ナメたことを。死ぬのは貴様だ」


 軽く言葉を交わし合ってから、

 両者は、ヒュンと、姿を消した。


 残像を世界に刻みながら、時空を駆け抜けて、

 互いに、拳をかわしあう。


 無粋な魔法を切り捨てて、

 互いに、全力の肉体言語コミュニケーション。


 拳を交わし合う中で、

 センは、


「こちとら、これまで、ボケニートと厨二迷宮という、鬱陶しいコトこの上ない地獄で、もがきあがき苦しみ続けてきたんだ! イカれた化け物どもと、バカみたいに長い時間戦って殺されて、ついには、トウシにまで頼るはめになって、結果的に、ヨグの分体を殺すまで成長した! その俺がぁ! てめぇみたいな、モブの強化版ごときに、いつまでも負けると思うなよぉおおお!」


 歯をむき出しにして、

 全身全霊の特攻。


 とりま、後先考えない、アホの一撃。

 計算を伴わないバカの一手は、

 時に、とんでもない突破力を発揮する。



「龍閃崩拳!!」



 今のセンに可能な最強の全力をぶつけられたことで、

 クルルーは、


「ぶげはぁっ!!」


 豪快に吐血する。

 白目をむいて、吹っ飛んで、


「っ……が……ぁ……っ」


 そのまま動かなくなった。


 その様を見届けたセンは、

 ニャルに視線を向けて、


「どんなもんじゃい……あほんだらぁ……ナメんなよ」


 そう啖呵を切って見せた。


 そんなセンに、

 ニャルはニコっと、嬉しそうに微笑んで、


「いいねぇ」


 と、親指を立てながら、そう言うと、

 その親指で、中指をはじいて、パチンと音をたてた。


 すると、クルルーの体がスゥっと溶けていって、

 センの中へと納まっていく。


「見事だ、センエース。この偉業は、君以外、誰もなしえない」


「……トウシなら、もっと楽にここまで来られたと思うけどな」


 不愉快そうに、拗ねたように、そう言うセンに、


「いや、無理だね」


「……ぇ」


「田中トウシでは、ここまでくることは出来ない。絶対だ。それだけは、嘘偽りなく、全力で保証しよう」


「……」


「君はすごいよ、センエース」


 その言葉を受けて、

 センは、自分の奥からこみあげてくる何かを感じた。


 一瞬、泣きそうになって、

 けれど、それはあまりに無様だから、

 どうにか、全力で奥歯をかみしめて、



「……何を根拠に……」



 つい、謎の反発精神を見せてしまうセンに、

 ニャルは、ボソっと、小さな声で、


「根拠も何も、事実として、田中トウシはここまでこられなかったんだよねぇ……」


「あん? なんて? いくらなんでも声が小さすぎる。もっと、はきはき喋ってくれ」


「気にする必要はないよ。ふと、宇宙の膨張率について思いをはせただけだから」


 ニャルは、そこで、ニコっと微笑み、


「セン。とにもかくにも君だけだ。君だけが、この先にいける」

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