7話 痛みの軽減は強い快楽。
7話 痛みの軽減は強い快楽。
――イブの指示を受けて、
『今、自分が苦しんでいるのは、目の前にいる、このへちゃむくれのせいであり、こいつさえいなくなれば、自分は救われるのだ』――と、全力で思い込もうとする世界中の人々。
センエースを憎むことで、本当に、全身を包んでいる痛みが、スゥっと和らいだ。
完全に痛みがなくなったわけではないが、
まるで、出来の悪い麻酔でも打ち込んだみたいに、
『我慢できる程度』にまでは落ち着いてくれた。
それを理解したと同時、
世界中の人間が、より強く、もっともっと、と、
センエースを必死になって憎み始める。
『味を占めた』という表現も、また少し違うのだが、
『センエースを憎めば体が楽になる』という『この事実』は、
瞬く間に浸透し、世界中の人間が、とにかく全力で、
より深く、より強く、センエースを憎んで、憎んで、憎んで……
結果、その膨大な『負のエネルギー』は、
『ははははは。いいぞ、虫けらども。貴様らは脆弱だが、種全体が持つエネルギーの【総量】だけは一丁前だな。おかげで、私はどんどん強化される。さあ、もっとだ。もっとセンエースを憎め。心の底から憎悪しろ。貴様らの畏れと穢れは、邪神である私の糧となる』
『痛みがなくなる』というのは『快楽』である。
『平常時の健康』は退屈な代物だが、
『痛みの軽減を経た上での健康』は、
食事やセックスを大幅に超えている快楽。
そして、人は快楽を求める生き物。
人の欲望は底なし。
――つまり、現状、
全人類の、センエースに対する憎悪も底なし。
『くく……十分だ。もう、私には必要ない。あとは、これを』
そうつぶやきながら、
イブは、センを睨みつけて、
『さあ、人の王センエースよ。ささやかながら、私からのプレゼントだ。受け取ってくれ。くくく』
そう言いながら、パチンと指を鳴らすイブ。
その瞬間、
全人類の憎悪が、直接的な精神的負荷として、センにのしかかってきた。
「どぉえええええっっ! ぶっふぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!! うぉげぇえっ!!」
そのあまりの『重さ』に悶絶を隠せないセン。
本当に、エゲつない重さだった。
全人類から注がれる憎悪。
『人類という種に内包されている膨大なエネルギー』。
――『ソレ』は、正しく運用すれば、『運命を斬り裂く強烈な剣』にもなりえるが、しかし、現状のように、『ヒーローを押しつぶす拷問道具』にもなりえる。
『切羽詰まった身勝手な感情』の全部が、
センを押しつぶそうとグイグイ、グイグイと押してくる。
「ぐぐぐ……ぎぃ……いぎぎぎぎっ、ぎぎぎっ」
奥歯をかみしめながら、心の中で、
(うぅ……ぐぅ……おお……ぃ、いやいや……こいつは、ガチでキツイな……えぐい、えぐい、えぐい……図虚空の精神負荷でいうと……300%級ってところか……この手の絶望に慣れていない『3周目ぐらいの時の俺』だったら、普通に、一瞬でヘシ折れていただろうな……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます