83話 一昔前のサンデー系ラブコメ。


 83話 一昔前のサンデー系ラブコメ。


「あなたは酷い人ですね……色々と」


「俺がクズなのは認めるが、しかし、マシなところも色々とあるんだぞ。読書が趣味なところとか、ポイント高くない?」


 ファントムトークで流そうとするセンに、

 黒木は、母性のこもった笑みを浮かべて、


「これが、お見合いなら、『趣味・読書』は、それなりの効力があるワードでしょうが、この状況下において、その情報は、何の意味もありませんね」


「……だろうな」


 そう言うと、

 センは、図虚空に視線を送る。


 すると、図虚空が口の形状になって、

 ペっと、デフォルメされた神格を吐き出す。



「イソグサ、これより、お前は、黒木専門の護衛だ。何があっても絶対に守れ」



「…………了解、マスター」



 しぶしぶといった感じで返事をするイソグサ。

 図虚空の中にいる間に、あらかたの説明は終わらせておいたので、

 話は早かった。


「それじゃあ、俺は、眷属を振り分けていくから、失礼させてもらう。出る時、家のカギはかけて……いや、かけなくてもいいや。何か盗まれたとしても、どうせ、一週間後にリセットするから」


 そう言って、センは瞬間移動をした。


 センの残影を眺めながら、黒木は、

 ボソっと、


「リセット……されてしまうんですね……また……」


 静かに、そうつぶやいてから、

 天を仰いで、重たいタメ息をついた。



 ★



 紅院にガタノトーアを、

 トコにクティーラを、

 茶柱にゾスを、

 それぞれ振り分けたセンは、


 無性に独りになりたくて、

 学校の屋上に瞬間移動していた。


「やはり、独りのほうがいい。自由こそ至高」


 一息つきながら、空を眺めるセン。

 そんな彼の目の前に、

 図虚空が勝手に召喚されて、

 中にいるヨグシャドーが、


「5年かける気か?」


 と、ふいに、そんな質問を投げかけてきた。


「は? なんの話?」


「目の前にベッドがあったのだから、あのままなだれ込めば、四分一クリアだというのに、ソっと手を握りしめるだけで終了とは……あのペースだと、交際がはじまるまでに五年はかかりそうだぞ。一昔前のサンデー系ラブコメのような、つかず離れずの心理戦を繰り広げている余裕などない、という現実が、まだ分からないか?」


「いや、まあ、わかってはいるんだが……わかっているからと言って、すべてに対して合理的な快刀乱麻をぶち込んでいけるわけでもあるまいよ」


 うにゃうにゃと、煮え切れない態度で、


「というか、かなり頑張った方だろう。俺に好意を持ってもらおうと、色々、俺の中にある引き出しを開けに開けたぞ。あれだけ頑張ったんだから、褒められることはあっても、けなされる筋合いはないと、ぼく様ちゃんなんかは思いますけどねぇ」


「会話の中で、ちょいちょいはさむ『自分下げ』が、『計算』ならばともかく、実際のところは、持ち前のチキンが暴走しているだけ。ハンパな口説き方で、モヤモヤさせるだけの害悪プレイ。あれだけ時間と手間をかけて、半歩しか前には進めていない。貴様はカスだ、センエース」


「後退していないだけマシだろうが! 俺のこれまでの人生を考えると大健闘だと言える! 俺は悪くない! 俺は頑張った!」

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