9話 残り1パーセントの騙されやすいバカ共。


 9話 残り1パーセントの騙されやすいバカ共。


「――お前らの陰鬱な顔を見ていたら、そっちの方がしんどいな。別にいいから、お前らの重荷もよこせ。全部背負ってやるよ。いまさら、数人分の重さが加わったところで、大差ないからな」


 そう言って、くいくいと手招きをするセン。


 そんなセンに茶柱は、


「自分の荷物は、自分で背負うにゃ」


 凛とした顔で、そう言った。

 『それまでの発言との兼ね合い』など一切考えない。


 いつだって、自分の言いたいことを言って、やりたいことを通すだけ。

 そのあたりの『矜持』というか『意志の強さ』は、

 少しだけセンエースにも似ている。


 ――紅院もトコも黒木も、

 まっすぐな目で、センを見つめるばかりで、

 決して、センを憎もうとはしない。

 というか、憎む理由が、あまりにもなさすぎた。


「……バカばっかりか?」


 と、呆れ果てつつも、

 センは、背筋を伸ばして、まっすぐに立ち、


「まあ、いいや。俺は別に、女の荷物を持つことに人生をささげているジェントルマンってわけじゃねぇ」


 などと、どうでもいい言葉をつぶやきながら首をまわす。


 ――つい、さきほど、『全人類に憎悪され、その重荷を一身に背負うという地獄』と、センの現状を表現したが、正確に言うと、センに憎悪を向けているのは『全人類のうち99%ぐらい』であり、残りの1パーセントは、歯を食いしばって、現状の苦しみに耐えている。


 その1パーセントとは、悪い言い方をすれば『騙されやすいバカたち』である。


 『センエースは全人類を守るため、必死になって地獄と向き合い続けた王である』という300人委員会の情報操作をうのみにしているバカども。


 残り1パーセントに属する『彼・彼女たち』は、間違いなく、愚者である。

 しかし、イブに言われるまま『センエースを憎んでいる者』と天秤にかけた際、どっちの方が、より愚かしいかと言われると非常に悩ましいところ。


 『センエースを信じている1パーセントのバカたち』は、

 イブから精神攻撃をくらったことで、

 『今、自分達が受けている地獄を、センエースは、これまでずっと、代わりに受け止めてくれていた』、

 という事実に気づいた。


 だから、つまり、彼・彼女たちは、

 『茶柱たちと同じ理由』で、今、必死になって、

 自身に降りかかっている地獄と向き合っている。


 ――『そのこと』を、センエースは理解している。

 完全に把握できているわけではない。

 世界中の人間の様子を確認できるわけではないから。


 ただ、なんとなく、背負った地獄の『感覚』的に、

 『これは、全人類分の重さじゃねぇ』と理解できた。


 ――だから、というわけでもないのだけれど、

 センは、



「……さて……じゃあ、行こうか。あのイブとかいうカスを放っておいたら、また何をするかわからねぇ。どうにか居場所を見つけて、ぶん殴って、俺のコレクションに加えてやる」



 そう言いながら腕をまわす。

 その目には覚悟が宿っている。

 『命の王』としての覚悟。

 『全人類を背負ってやる』と叫んでいる瞳。


 そんなセンを見て、ゾーヤが、

 センに、


「……なぜ……そこまで……」


 涙を流しながら、


「あなたは、これまでずっと、多くの弱者のために苦しんできた。そんなあなたを、人類は裏切った……この世界は、カスみたいなゴミ溜め……それなのに……なぜ、まだ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る