64話 みなさんご存じの意外性。
64話 みなさんご存じの意外性。
ここまで積み重ねてきて、しかし、まだ、この地獄は、
『序盤に過ぎないのでは?』と、どこかで、感じ始めていた。
楽観的な予想はいつだって盛大に外すのに、
イヤな予感というのは、基本的に当たってしまう。
そんな人生に嫌気がさして、
けど、それでも、どうしても降りられない。
そんな自分の性格・性質を呪いながら、
センは、さらに、繰り返した。
繰り返して、
繰り返して、
繰り返して、
――繰り返した。
「……生きているか?」
そう問いかけられて、センは、
「……」
言葉を返すことができなかった。
『4999回目』のループ。
初日の朝、
ベッドで横たわるセンは、
しばらく、目を開けることすらせず、
黙ったまま、無の奥底に引きこもっていた。
「生きているか?」
同じ質問を受けたことで、
センは、ようやく目を開けて、
「一つ、教えて……」
「なんだ?」
「……俺……この終わらない一週間の地獄を……これまで、何回、くりかえした?」
「だいたい5000回ほどだ」
「……5000……そんなに……」
「時間でいうと、100年くらいだな」
「……」
センは一度、黙りこくってから、
「すぅ……はぁ……」
深呼吸を一度はさんでから、
ヨグシャドーの中心をギロっと睨んで、
「勝てないのか? 俺は、お前に……まだ」
「勝てるわけがない」
「そうか……」
そこで、センは、ヨグシャドーの中心から視線をそらして、
ここではないどこかを睨みつけながら、
「すぅ……」
大きく息を吸って、
「ナメんじゃねぇぞ、ごらぁああああああああああああああ!!」
血走った目。
引きちぎれそうな喉。
とにかく、全部を沸騰させて、
センは、『底意地』を叫ぶ。
「――『折れる』と思っただろ?! 『崩れる』と予測しただろ?! わかるぜ! なんでか! それは、俺自身がそう思っていたからだ! でも、だからこそ! 折れてやらねぇええ! 絶対に降りねぇ! 降りてやらねぇえええ! 苦しくて、苦しくて、苦しくて! その全部を、絶対に乗り越えてやる! 俺にはできる! なぜか教えてやろうか! ボッチだからだよ! 俺が積み重ねてきた孤高が! 虚勢ではなく、本物だからだ! 俺が何を言っているか、イマイチわからないって! 安心しろ! 誰も理解しちゃいねぇ! 誰にも俺を理解することはできねぇ! 俺自身、俺を理解してねぇ! けどなぁあ!!!」
「けれど、なんだ?」
「……なんもねぇよ。……言いたいことは終わった。これ以上の言うべきことなんて、今の俺には、もうない」
そう言いながら、
センはベッドから起き上がり、
「5000でも足りない……了解だ」
ギリっと奥歯をかみしめ、
「幸いなのか不幸なのか知らんが、銀の鍵はまだまだアホほどある……くりかえしてやるよ。まだまだ、何度でも。必要だってんなら、10000でも、10万でも、100万でも、1000万でも」
そこで、ヨグシャドーが、真摯な目で、
センを睨みつけ、
「仮に、1000万回挑戦して、それでも、ダメだったら?」
「その時は……」
かげりのない、
澄んだ眼光で、
世界を捉えて、
「当たり前のように」
世界が耳を傾けた。
彼の覚悟に触れるため。
息を殺して全神経を集中させる。
「1000万1回目に挑戦してやるよ」
「……エクセレント」
誰にも聞こえないほど、小さな声で、
ヨグシャドーは、センを称賛する。
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