57話 破壊衝動。


 57話 破壊衝動。


 言葉が結晶になって降り注ぐ。

 無数の光が束になって、

 ほんの少しでも、

 『センエースの愛に応えよう』と、

 必死になって、想いを紡いでいる。


(……これは……あいつらか? ……いや、違う……? コアオーラは同系統……けど……違う……同じだけど……違う……)


 センには、よく分からなかった。


 『彼女』からは、『トコ』・『紅院』・『茶柱』・『黒木』の気配を感じる。


 センは、彼女に対して、

 『おそらく、彼女たちが合体したのだろう』という推測をたてている。


 『センエースとソンキーが合体してセンキーになった』のと同様のステップを踏んだのだろう、と認識。

 その認識に誤りはない。

 が、同時に『それだけではない』という事も理解できてしまったから、混乱している。

 知れば知るほどわからなくなる。

 『まるで恋愛みたいだ』なんて、シャバい感想を抱きながら。



「お前……誰……?」



 自分を抱きしめている彼女に、

 センは問いかけた。

 すると、彼女は、センを抱きしめたまま、


「この世で唯一、あなたの隣に立てる女」



 堂々とそう言い切ると、

 彼女は、センから離れ、

 オメガをにらみつけて、


「あたしの男に……なにしてくれてんだ、クソボケが」


 そう言い捨てると同時、

 両手をオメガに向けて、



「剣爛・天罪龍毒ランク2300」



 破格の魔法でオメガに特攻。

 嵐を彷彿とさせる『豪華な猛毒の剣』がオメガに襲い掛かる。


 とてつもないクオリティの魔法であるため、

 さすがのオメガでも、余裕で対処というわけにもいかなかった。


 無数に襲い掛かってくる猛毒の剣を、

 ギリギリのところで回避しながら、

 渋い顔で、


「共鳴融合が発動しているわけでもないのに、ずいぶんとえげつないシンクロ率だな」


 そう言った直後、ボソっと、


「……『原初の愛』の強制発動……これは、普通に想定外……つぅか、まずいな……枯らされる……」


 舌打ちをはさみ、


「……色々と、うまくいかねぇなぁ……」


 しんどそうに、そう言った直後、

 オメガは、猛毒の剣を回避しながら、

 自分の頭に、自分の指を突っ込んだ。

 そして、耳かきでもするみたいに、グシグシと脳をほじる。


 その奇怪な光景に、

 『彼女』は、ドン引きしつつ、


「きもちわるいクソだなぁ! 死ねよ、いい加減!!」


 そう叫びながら、

 『猛毒の剣』にバフをかけて、

 速度と火力を上げていく。


 凶悪な弾幕がオメガを包み込む。


 その一手に対し、

 オメガは、


「ああ、ダメだな。『俺』が残っていると、すべてをよけきるのすら無理……俺のことは、完全に捨てるしかない……」


 ダメージを負う。

 痛みを伴う。


 だからこそ、より深く、

 自分の脳をほじる作業に没頭する。



 その数秒後、オメガの中で、

 『ガチっ』という、何かがハマるような音が響いた。



「――『破壊衝動』にシフト……『俺』を捨てる覚悟を決めてやる。だから、あとは任せたぞ」



 自分自身に言葉を投げかける。

 そんな自分の言葉に対し、

 オメガは、ニィと笑みを浮かべることで返す。


「くく……何が覚悟だ。ビビっただけのくせに。『お前』は本当に脆いな。あんな、カスみたいな女共の攻撃で怯みやがって。つぅか、『お前』、ちょっと泣いてんじゃねぇか。本当に、いつまでたっても泣き虫だな。気色悪ぃ。もう、マジで死ねよ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る