86話 狂気的に暖かい病的な高潔さ。


 86話 狂気的に暖かい病的な高潔さ。


「あなたが信条としているワガママの内訳を、お聞かせいただきたい」


「なんで、そんなことをお前に教えてやらにゃならんのだ、という気持ちで一杯だが……まあ、いいや。特別に教えてやるよ。耳をかっぽじれ」


 そう言いながら、センは指折り数えて、


「まず、『とりま最強になりたい』という小学生みたいな目標が割合のトップ。で、『不条理や不合理といったウザい面倒が嫌いだからなるべく排除したい』という感情論が次点。さらには、『孤高こそ至高』という無敵の自分理論。――この三つで、俺のワガママはほぼ完成しているんだが、そこに、細やかなニヒルさと、低気圧なダーティさというスパイスも隠し味レベルで混じってくる。俺のワガママは、なかなかコクがあって味わい深い。苦味が旨味になっている感じだな。ちなみに、言うまでもないが、俺のカルマ値は、じゃっかん、悪寄りだ。極悪ではないが、決して善ではない。いわゆる、ちょいワルだな」


 ペラペラ、ペラペラと、

 びっくりするぐらい中身のない事をほざきあそばされるセン。


 常人の視点では、クソ以下のファントムな戯言に過ぎないが、

 しかし、人生経験豊富なゾーヤの視点だと、

 その奥にある『本音』が、ほんのりと見えた。

 色彩は不明だが、シルエットだけは垣間見ることができた。


 ――だから、ゾーヤは、


「あなたの高潔さからは、狂気を感じる。病的と言ってもいい。あなたは異常だ。けれど、怖くはない。あなたの狂気は暖かい」


 普通に、思ったことを口にした。

 ゾーヤのような立場の人間は、

 どのような状況であれば、

 『本当に思ったこと』を口に出すことはない。


 ――しかし、ゾーヤは、今、

 まっすぐに『ただ思ったこと』を口にした。


 ――そんなゾーヤの本音を、


「高潔? 愚かしいな。俺という存在からは、もっとも遠い言葉の一つと言ってもいい。あと、暖かい狂気など存在しない。狂気というのは冷たいんだ。いつだってな。俺は詳しいんだ」


 センは否定する。

 ゆるぎない視点。

 センは、いつだって、『綺麗なだけの言葉』を拒絶する。


 極限状態ではヒーローを演じるくせに、

 それ以外の舞台ではピエロを演じ続ける。


 どちらも本質的には同じもの。

 視点の違いでしかない。


 ――それが理解できたから、

 ゾーヤは、自然に、片膝をついて、こうべを垂れた。


 精一杯、全身で、誠意を示しながら、

 ゾーヤは、センに、


「あなたこそ、命の王。我々全ての上に立つべき存在。その足元に、ひれ伏しましょう。いや、どうか、ひれ伏させていただきたい。あなたこそが、我らの主。人という種の頂点」


 全霊の忠誠を誓う。

 センエースという光に、全てをベットする覚悟が決まった。

 いや、覚悟という言葉はふさわしくない。

 この感情は、一種の依存でもあるのだから。


「今日より、私は、あなたのために生きることを誓います。この上なく尊き王よ。私の命は、常に、あなたと共に在る」


 などと、

 一方的に主従関係を結び散らかすゾーヤに、

 センは、




「あ、間に合ってまーす。だいじょうぶでーす、はーい」




 と、下手にゾーヤを刺激しないよう、

 にこやかに、やんわりとお断りを差し込んでいく。

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