24話 次から次へと。


 24話 次から次へと。


「実は、金婚式の記念品をどれにするか悩んでいたところにゃ。一緒に考えてほしいにゃ」


「……50年後の記念品を今考えんのかい……気がはやいとかいうレベルじゃねぇな」


「ツミカさんは、この、『蛇がダルマを喰わえているキーホルダー』なんかいいと思うんだけど、センセーはどう思うかにゃ?」


「なんでやねん、としかおもわねぇよ、総合的かつ多角的に。金のダルマとかなら、まだありえるだろうが、なんで、わざわざ蛇にくわえさせる?」


「こっちの、胸にゴシック体で『タフぶるなよ』と描かれたTシャツなんかも捨てがたいにゃぁ」


「もう、完全にワケがわからんようになったな。お前の思考回路は、本当にどうなってんだ? つぅか、普通に皿とか盾にしてくれや、頼むから」


「やれやれ、センセー、金婚式の話は、まだ気がはやいにゃ。金婚式よりも、銀婚式の方が先でしょうが。まったく、やれやれ」


「なんで、俺の方が、あわてんぼうさん扱い? 先に、金婚式云々の戯言をぶちかましてきたのはテメェの方だろうが」


「どこにそんな証拠があるのかにゃ?」


「あー、こいつとの会話、疲れるぅうう!」


 頭を抱えて苦悩を叫ぶセン。

 それを見てケラケラと笑っている茶柱。


 ――と、その時だった。




「貴様が『せんいちばん』かぁあああ!」




 背後から、怒声が響いた。

 振り返ってみると、

 そこそこガタイのいい長身イケメン系の茶髪男子が、

 怒りで顔をゆがませながら、センを睨みつけていた。


 『彼』が有する特徴の中で、

 最も特筆すべきものは、

 やはり、右手に握られているブツ。


 『彼』は、出刃包丁を『むき出しの状態』で握りしめていた。


(おいおい……)


 普通に引いているセンに対し、

 出刃包丁の彼は、


「貴様、マナミお嬢様と婚姻している身でありながら、他の女にうつつをぬかすとは、どういう了見だ、ごらぁあああ!」


 バチギレの怒声が校内中に響き渡る。

 何事かと、学生たちが集まってくるが、

 しかし、彼の手の中の出刃を見て、

 誰もが、『これ以上は近づいてはいけない』と察知し、

 適切以上の距離をとる。


 出刃包丁の彼は、そんな周囲の視線など、まったく意に介していない様子で、


「なんで、なんで、なんでぇえ! 貴様なんかにぃいい! 大事な、大事な、お嬢を、奪われないといけないんだぁああああ! おかしいだろぉおおお! こんなの、絶対におかしいぃいいいいい!!」


 いまにも血の涙を流しそうな勢いでキレ散らかしている。


 このままだと警察に捕まるとか、家名にキズがつくとか、そんなことは一切考えていない。

 実のところ、彼は、佐田倉と同じぐらいの名家出身の親衛隊。

 名前は、『宝生(ほうしょう)』。

 黒木の婚約者候補の一人。


 黒木の婚約者候補は何人かいて、

 宝生は、その中で最有力候補というわけではないものの、

 黒木に対する愛情の深さで言えば、

 候補者の中でダントツ。


 ゆえに、


「認めない! 認められるわけがない! せめて、お嬢を大事にしてくれる人なら諦めもつくが、こっ、こんなっ……こんなブサメンのクズにぃい! 絶対に認めないぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」


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