13話 たまには変わった一幕も。


 13話 たまには変わった一幕も。


「この先、何百回、何千回、タイムリープしようと、俺が、あんたより年下の後輩であることに変わりはない。よって、あんたは俺に敬語を使うべきではない。証明完了」


「勉強になります」


 多くの言葉を使ったが、

 しかし、結局、頑ななままの佐田倉に、

 センは、しんどそうな顔でため息をつき、




「……もう、いいや……」




 面倒くさくなったセンは、

 『佐田倉の説得』を普通に諦めて、

 食事のターンに入った。


 佐田倉が用意してくれた食事は、

 彼の見た目に沿わない繊細なフルコース。


 ナイフとフォークが用意されていたが、

 『知ったこっちゃねぇ』とばかりに、

 箸(はし)だけで片っ端から片付けていく。


 魚はポワレで、肉は鴨。

 デザートは甘さ控えめのアイスだった。


 風呂場ではムリヤリ背中を流され、

 頼んでいないパシリを勝手にこなされる。


 エアコンが汚れているとか、

 排水溝に髪の毛がたまっているとか、

 居間の電球が切れかけているとか、

 トイレの清掃が甘いとか、


 なんだかんだ、目ざとく、家の中のアラを見つけては、

 勝手に、どんどん掃除をしていく。


 そんな佐田倉に、

 センは、


「……いや、どうせ、リセットするから、掃除とかせんでいいから」


 そう言うと、

 佐田倉は、


「その考え方は、どうせ死ぬから生きる必要はない――というのと同じかと」


「えー、いや……それとは、また、違うくない?」


 好意で掃除してくれているのを、

 『ムリヤリ止める』というのもおかしな話だったので、

 センは、佐田倉の好きなようにやらせておいた。


 その結果、家はピカピカになった。


「なんで、そんなに家事が得意なの?」


「得意というより、『家事』を他人に任せる習慣がないだけです。『一般家庭では、母親が、家事の大半を担う』……という話は、よく聞きますが、ウチは、そういう家ではなかった。それだけの話ですよ、兄(あに)さん。つまり、俺は別に家事が得意なのではなく、ただ、やってきたから出来るという、それだけの話です」


 別に、そこまで『佐田倉と話したかった』というわけでもないのだが、

 一緒にいる時間が、それなりに多くあったため、

 センは、佐田倉と、色々と言葉をかわしあった。


 華族に生まれ、家の流儀に従って生き、

 『愛する女』を守るために強さを求め、

 ただひたすらにもがき続けてきた人生。


 センの人生と比べれば、当然、

 壮絶さも、絶望感も控えめだが、

 しかし、もちろん、それなりに、

 紆余曲折・波乱万丈が、

 佐田倉の人生にも、確かにあった。


 センの『性格の問題』で、

 佐田倉の『深部』に踏み込んだりはしなかったが、

 『表層』に触れるだけでも、

 佐田倉が、『必死に生きてきた』ということは理解できた。




 誰だって、必死に生きている。




 センだけではなく、

 佐田倉だって生きている。


 彼は、決して、漫画やアニメの背景に描かれるモブではない。

 親がいて、歴史を背負って、愛する人がいて、

 毎日、メシを食べて、クソして、風呂入って、眠って、

 そうやって、必死に、毎日を生きている。


 そして、いつか、自分の恋心に区切りをつけて、

 適切な相手と家族を形成するのだろう。


 自分の子供がかわいくて、

 無理して仕事を頑張って、

 くたくたになって、

 体を酷使して、

 そうして、いつか、命を終えるのだろう。


 ――そういう、一人の人間。

 頑張って生きている命の一つ。




(忘れていたわけじゃないが、あらためて思い知らされたよ。世界ってのは、どれも、記号じゃねぇ……空っぽの箱庭なんかじゃねぇんだ……)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る