87話 とてもダメな三人。


 87話 とてもダメな三人。


「1時間か……くく」


 うすく笑ってから、


「1分で削ってやろう。絶望するがいい」



 そう言いながら、

 センとの距離を詰めるヨグ。


 それまでは、ナメプ全開で黙って見ていてやったが、

 ここからは容赦ないタイムアタック。


 センキーを破壊しようと翔ける虚空。


 そのムーブに対し、


「……少しだけ、慣れてきた……」


 そうつぶやきつつ、

 ヨグの特攻をギリギリのところで回避するセンキー。


 まだぎこちなさは残るが、

 先ほどよりは、まだマシな動き。


 その様子を尻目に、

 センキーの中にいる『セン』は心の中で、


(……俺は無能だから、この面倒な状況に適応するのに、最低でもあと1億年は必要だろう。けど、カスみたいな俺とは違い、ソンキーは武の天才。この状況でも、どうにか、時間を稼ぐぐらいはできるはず。1時間稼げるレベルかどうかは知らん。ただ……できるかどうかなんかは、どうでもいいこと。いつだって、やるしかないんだ)


 合体によるデメリットは大きい。

 普通は弱くなる。


 ――しかし、合体する個体が『死ぬほど特別』であれば、

 膨大なデメリットをどうにかカバーすることも不可能ではない。


 この三人に、『たがいのダメな部分を補うチームワーク』など一ミリたりとも存在しない。

 しかし、それぞれの『ぶっちぎった個性』を乱舞させて、

 世界を翻弄することは可能。


 破格の戦闘センス、

 常軌を逸した頭脳、

 頭おかしいド根性。


 すべての『強み』だけを、とにかく、全力で、ブンブンと振り回し、

 虚空の王に対し、ラリったような圧力をかけていく。



「――戦闘力の精度は間違いなく低下している。だが、戦闘力の圧力だけは10倍以上に膨らんでいる……本当に面白い個体だ」



 ただの数字に、この威圧感は備わらない。

 合体により膨れ上がったのは存在値だけではない。


 セン、ソンキー、トウシ。

 この三名は、それぞれ、『ダメな部分』が多すぎる。

 正式にキ〇ガイで、自己中で、クレイジーで、病気で、電波で、泣き虫で、弱虫で、厨二で、マザコンで、変態で、頑固で、意地っ張りで、見栄っ張りで、ファントムトーカーで、偏屈で、強情で、無駄にプライドが高い。


 ――それぞれ、合体する前から、多大なハンデとデメリットを背負って生きている。

 だから、『マイナス』との付き合い方には慣れている。


 『出来が悪い』からこその利点を最大限に活かして、

 センキーは、ヨグを相手に時間を稼ぐ。



「いったい、どうしたら、こんなにも歪んでしまうのか不思議でならない」



 普通に引いているヨグに対し、

 センキーは、


「いろいろあったんでなぁ。ぶっ壊れて、歪んで、腐っても仕方がない」


「いろいろあったから壊れたわけではない。貴様は、最初から壊れている」


「俺の何を知ってんねん」


 言いながらも、

 センキーは、さらに、深く、深く、

 自分の底へと潜っていき、

 ヨグのムーブに対して、柳のように、しなやかに合わせていく。


(ソンキーのセンスにおんぶ抱っこで、受け流すことだけを考えて立ち回れば、どうにか時間を稼ぐぐらいは不可能ではない……というか、やる……必ず、稼ぎ切る……っ)

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