629 神の裁きにゃ~
「まぁ地球のことは、一旦忘れようにゃ」
リータ達が変な理論を発表するので、わしはアメリヤ王国についての話に戻す。
「まず最初にやることは、ここを襲ったアメリヤ兵の処置にゃ。次に、アメリヤ王国をどうするかだにゃ~」
わしが悩んでいたら、メイバイが勢いよく立ち上がった。
「シラタマ殿……奴隷を解放してあげてニャー! きっとすっごく苦しんでいるニャ。すっごく悲しんでいるニャ。お願いニャー!!」
メイバイが身を乗り出して懇願すると、リータはメイバイの肩を抱きながら話に入る。
「私からもお願いします! 奴隷から解放された人の苦しみは、私も少しは知っています。あんな悲しいことをする人は許せません!!」
二人の意見を聞いて、わしは決断する。
「よっにゃ! わしに任せておけにゃ。猫の国初の戦争にゃ! アメリヤ王国にゃんて、わしが蹴散らしてやるにゃ~~~!!」
「シラタマ殿~~~」
「シラタマさ~~~ん」
「ゴロゴロ~」
「………」
わしが大声で決意を語ると、メイバイとリータはわしを抱き上げて撫で回す。だがその時、無言でわし達を見ている人物に気付いて、わしは「ハッ」とする。
「てのは冗談ですがにゃ~。猫の国、戦争しにゃい」
「「なんでにゃ~~~!!」」
「ゴロゴロゴロゴロ~!!」
わしが前言を撤回したら、リータとメイバイの激しい撫で回し。このままではモフられ死にしかねないので、念話で「寝室で理由を説明する」と言って移動した。
「私達の納得のいく説明をしてくれるのでしょうね?」
「シラタマ殿は、酷いと思わないニャー??」
わしをポイッと投げ捨てた二人の問いに、コソコソと説明する。
「あ、えっと……イサベレが見てたにゃろ?」
「それがどうしたのですか?」
「ほ、ほら、うちって侵略戦争を放棄してるにゃ~」
「つまりどういうことニャー?」
「アメリヤ王国に攻め入ったら、憲法を破ってしまうにゃ」
「「あ……」」
「それをイサベレの目の前でやったら女王に報告されるにゃ。もしも女王から他国に漏れでもしたら、わしは法律も守らない王様と伝わり、せっかく良好になっているのに疑心暗鬼が生まれるにゃ」
「それはマズイですね……」
「連合軍でも組まれたらマズイニャ……」
「わしが全員血祭りにあげることになるにゃ……」
憲法違反から全世界が滅ぶ姿が目に浮かんだわし達は「にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~」会議。様々な案が出たが、イサベレを眠らすのは最終手段にしようね? 一手目にやる事じゃないから!
いくらスパイであっても、話し合いも無しにフルボッコはかわいそう。リータとメイバイに任せると怖いので、わしが対話を持って説得する事となった。
寝室から出ると、わしは肉球をモニュモニュしながらイサベレと喋る。
「あの~? 里帰りしにゃい??」
「その間に戦争を終わらせると受け止める」
「うっ……じゃ、じゃあ、目を瞑ってもらうことにゃんかは……」
「別にいいけど報告することには変わらない」
「ぐっ……」
これではリータ達の案を使わないとダメか……。でも、寝ている内に強制送還しても、やることは変わらんのじゃから、もう遅いか……。てか、イサベレって、こんなに頑固な奴じゃったっけ??
「もしかしてにゃんだけど、わしが他国を襲ったら、絶対に報告するよう女王に言われてにゃい??」
「いいい、言われてない」
「だよにゃ~。女王がアメリカに国があるにゃんて、これっぽちも予想してないもんにゃ~」
「ううう、うん……」
「予想してたにゃ!?」
どうやら先見の明のある女王は、国がある場合を想定していたようだ。なので、わしがどう動くか……というか、わしが戦ったら必ず報告するように言われていたらしい……
これって、わしに戦争させない為にイサベレが居るってことか……まぁそのおかげで、憲法を思い出せたんじゃけどな~。
しかし、どうしたものか……
「イサベレは、奴隷制度についてどう思うにゃ?」
「酷いとは思う……」
「でも、他国が関与するのは筋違いって感じかにゃ?」
「それはわからない。女王陛下に聞かないと判断できない」
まぁイサベレは女王の家臣じゃしな。上の意見を聞かないと動けないか。じゃが、酷いと思う心は持ち合わせているんじゃな。
「じゃあ、イサベレの心のままに動いてみにゃい?」
「どういうこと?」
「わし達は補佐役にゃ。ケンカするのは、イサベレの判断にゃ。要は、東の国が主導で、同盟国の猫の国が協力するんにゃ」
「そ、それは……女王陛下に聞かないと……」
「帰っている暇はないにゃ。この部隊が全滅したと知ったら、おそらく援軍が大挙して押し寄せるだろうにゃ。全員捕まるか、皆殺しされるか……少なくとも、いまより被害は大きくなるだろうにゃ」
「………」
これでどうじゃ? 憲法には侵略戦争はしないと書いてはいるが、加担しないとは書いていない。そう言えば、女王と友好条約を結ぶ時は、そこを突かれたから適当に言いくるめたっけ。
ま、グレーだけど、これで憲法違反は免れる……けど、いいように使われたら困るから、帰ったら書き加えよう。
てか、本当は転移したら余裕で間に合うと思うんじゃけど、気付かないでくれよ~?
わしがポーカーフェイスでイサベレを見ていたら、リータとメイバイが、イサベレの手を取る。
「イサベレさん! イサベレさんは奴隷を見たことがないですよね? 私達が救った時には、死ぬ間際の人がいっぱい居たんです。いまも、刻一刻と死に近付いているはずです。一人でも多く救う為には、いま動かないといけないんです!」
「リータの言う通りニャ……私は毎日、奴隷だった人が消えて行く姿を見ていたニャ。次は家族じゃないかと、私じゃないかと怯えていたニャ……早く救わないと、その何倍もの人が悲しむことになるニャー! イサベレさん……私達と戦ってニャー!!」
「「お願いします!!」」
二人に頭を下げられて、イサベレは困った顔をする。そこに、珍しくオニヒメとコリスが話に入って来た。
「ママ達は正しいことを言ってると思う……困っている人を救うのに、やってはダメなことがあるの?」
「そうだよ。おなかいっぱい食べれないとかなしいよ。なんで食べさせてあげないのかしんじられない。そいつ、わるいやつ!」
オニヒメは冷静に判断したようだが、コリスの持論は食べ物寄り。「それで説得材料になるのかな~?」とわしが見ていたら、イサベレの考えはまとまったようだ。
「アメリヤ王国を見てから決めたい。話はそれからでもいい?」
もうひと押し足りんかったか~……でも、一歩前進じゃな。
「それでいいにゃ。みんにゃもいいにゃ?」
「「「「はいにゃ!」」」」
お~。初めて意思が伝わった気がする。語尾の「にゃ」は気になるけど、「にゃっ!」とかよりはマシじゃろう。
「じゃあ早く寝て、明日から行動しようにゃ~」
こうしてイサベレの決定は保留となったが、アメリカ大陸横断七日目は終わりを告げるのであった。
翌朝……
「さあて……こいつら全員奴隷にするにゃ~!」
「「「「「にゃ~~~!!」」」」」
朝食を済ませると、アメリヤ兵には奴隷紋。リータが掘り起こし、メイバイとイサベレが押さえ付け、コリスとオニヒメで奴隷魔法を使う。
わしは一人でそれらをこなしている。土魔法で掘り起こし、そのまま地面に張り付け、背中をまくって奴隷紋。
辺りは耐え難い苦痛でアメリヤ兵の悲鳴が凄まじいので、モノンガヘラ族が何事かと囲み、顔を歪めて見ている。
そうしてアメリヤ兵を奴隷に落としたらわしの後ろに整列させ、
「住人も揃っているようでちょうどよかったにゃ。この中で、殺したいほど憎い者を教えてくれにゃ」
「あの、それより、この者達が何故、猫神様に従っているか知りたいのですが」
「おっと、そこからだにゃ。ここに、魔法を使う人は居るのかにゃ? こんにゃ感じの力にゃ」
わしは風魔法を使って地面に亀裂を作ると、モノンガヘラ族の中にはそよ風程度だが使える者が居るとのこと。いちおうアメリヤ兵にも聞いてみたら、物語りで出て来るから魔法は知っているが、初めて見たそうだ。
気になる事はあるが、魔法で人を縛る事が出来ると説明して、モノンガヘラ族に動いてもらう。その時、いきなり殴り掛かろうとしたモノンガヘラ族が居たが、リータ達に止めてもらった。
この場で殺人やレイプを行ったアメリヤ兵は十人。暴力行為は数人、残りのほとんどはサブマシンガンを構えただけで、それほど被害は受けていないとのこと。
これらを三組に分けて、罪のある者は固めて座らせ、残りには乗り物を全て集めさせる。
その間、わしは念話を使ってシランと話をしていた。
「わしの国だったら、法律に
「死んでいった者達の為に、殺すのが適切かと……」
「まぁそれが妥当なんにゃけどにゃ~」
「猫神様はやめたほうがいいと仰るのですか?」
「こいつらを殺すと、残りの者が帰って伝えるにゃろ? そしたら、またアメリヤ兵が押し寄せるにゃ。もしも全員殺したにゃらば、探しに来る者が現れるだろうにゃ。そこで皆殺しがバレると、同じ目にあうだろうにゃ」
「裁くにしても、結局は、我々は生き残れないのですか……」
「だにゃ。せめて同じぐらいの力がないと、やり返したらおしまいにゃ」
シランはどうしていいかわからなくなったようなので、わしが助け船を出す。
「ここは、わしに任せてくれにゃい?」
「……どうするのですか?」
「こいつらは、アメリヤ王国に裁かせるにゃ。そしたら、ここに遺恨は残さなくてよくなるにゃ。それと、賠償金……食べ物をいっぱい払わせてやるにゃ。これで怒りは抑えられないかにゃ?」
「たしかにいい案に聞こえますが……」
「ま、今日だけは好きなようにしてやれにゃ。目玉をえぐり出そうと、
人を殺したのだ。女性の心を殺したのだ。殺したいほど憎い者には、賠償金や他者に裁かせても足りない。これだけしても収まらないはずだ。
現にシランは怒りを抑え切れずに、プルプルと武者震いをしている。
「そ、そんな酷いこと……残虐すぎます!!」
いや、わしが言い過ぎて震えていただけだったようだ。
「石を投げ付けるだけではどうでしょうか? それでも猫神様が許せないなら、ご自身でやってもらいたいのですが……」
「わしだってやりたくないにゃ~」
どうやらシランは、わしを悪魔だと勘違いして、どんなに残虐な事でも出来ると思ったらしい……
こうして罪のあるアメリヤ兵には石打ちの刑が執行され、モノンガヘラ族の投石でボロボロになったらわしに治され、おかわりの石打ちの刑を受けるのであった。
「「「「「悪魔……」」」」」
いや、二周目を促したら、アメリヤ兵だけでなく、モノンガヘラ族からも悪魔と呼ばれてしまうわしであったとさ。
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